第12章 目印を探して【我妻善逸】
身体もすっかり元気になって、任務に戻っても…紗英ちゃんの甲斐甲斐しいお世話は未だに続いていた。
『善逸さん、ご飯こぼしてますよ!』
『善逸さん、羽織の裾が綻びてます!直すので脱いで下さい!』
『善逸さん、大丈夫ですよ!絶対死にませんから!』
とにかく…とにかく、側に居る。
炭治郎はいつも善逸の世話してくれてありがとうね、なんて言ってるし!!お前は俺の母親かよ!!
伊之助は普通に仲良くなってるし!…あだ名は『瓶底眼鏡』って、まんまだけど…。
なんか…仲良くするのは良いけどさ…そうじゃなくて。
俺は禰豆子ちゃんが好きなのに、正直困るし、本当迷惑だよ!
「おう、我妻。お前らなんか夫婦みたいだよな!」
先輩隊士にそう言って揶揄われ…
俺はいよいよ堪忍袋の尾が切れた。
「もう!いい加減にしてくれない!?なんなの!?わけわかんないんだけど!!そんな世話してくれなくても良いから!俺、紗英ちゃんの事、絶対好きになったりしないから!!だいたい可愛くない子に迫られても迷惑なんだよね!!」
勢いに任せて、つい…言ってはいけない事を口走ってしまった。
「…ごめ…」
『すみませんでした…。』
俺の言葉を遮り…紗英ちゃんが謝る。
『…ご迷惑でしたよね。…すみません。』
「あ…えっと…。うん…困るし…。」
『…すみません、善逸さんが禰豆子ちゃん好きなのも…可愛い子が好きなのも…わかってたんですけど…。馴れ馴れしく…近付いたりしてすみませんでした。』
何も、言えない。だって本当に迷惑してたんだ。その気持ちは嘘じゃない。
『…私も、可愛いかったら…良かったのにな。』
悲しく…小さな音でゆり鳴らされる鈴の音。
苦しそうに、あはは…と笑って誤魔化しているけれど、その小さな瞳は悲しみで僅かに濡れている。
俺は、それに気付かないようにした。
『しつこくして、すみません。…もう、諦めますから。』
頭を下げて、立ち去っていく紗英ちゃんの姿から…いつまでも目が離さなかった。