第12章 目印を探して【我妻善逸】
「そんなに邪険にしたら紗英が可哀想だよ、善逸。」
少し苦笑いしている炭治郎に諫められてしまった。
「だってさ…可愛くないし。」
つい本音が漏れる。…このやり取りが禰豆子ちゃんなら俺だって素直に薬も飲むし、ほっといてなんて絶対言わない。…むしろ側に居て欲しいと思うよ。
「そうかなあ?紗英は可愛いと思うぞ?」
「どこが!?どこが可愛いの!?瓶底眼鏡じゃん!?なんかずっと世話焼いてくれるけどさ、ハッキリ言って迷惑だよ!!!」
全力で炭治郎に詰め寄る。
そうだ。「迷惑」だ。俺には心に決めた禰豆子ちゃんという存在がいるんだ。あんまり可愛くない紗英ちゃんに世話やかれたって…嬉しくないし、迷惑なだけ。
『善逸さん、炭治郎さん、喉乾いてませんか?おはきとお茶持ってきました!』
…出て行ったと思ったら、また直ぐ懲りずにやってくる。
だいたい、いつもこうだ。…何かと理由をつけて此処へやって来る。自分だってさ、怪我したんじゃないの?
「ありがとう!紗英!善逸も食べよう!」
「え…?ああ…ありがとう…。」
甘いものなら…まあ。嬉しいけど…。
『先程、苦いお薬を頑張って飲まれましたから。…せめてもの口直しです。』
ほんのり顔を赤らめて、俺と炭治郎に渡してくれる。
…鳴ってる音は…可愛いと思う。鈴を転がすような可愛い音。
目をつぶってそれが禰豆子ちゃんの音だったら…って想像しちゃうけど。
『…美味しいですか?』
控えめに…不安そうに聞いてくる紗英ちゃん。
「え?…ああ、おはぎね。…美味しいよ。…ありがとね。」
『良かった!手作りなんです!まだいっぱいありますから食べてくださいね!』
ニコニコと笑えば、瓶底眼鏡の奥の瞳は小さく弧を描いた。
うーん。ほら…やっぱり。可愛いとは言い難いよ。おはぎは美味いけど。
なんだか複雑な気持ちのまま、いくつかおはぎを食べる。
出されたおはぎは甘くて、普通に美味い。口に残る薬湯の苦さは、あっという間に消えてしまった。