第2章 鱗滝さんの恋愛事情【鱗滝左近次】
2人は日暮とともに屋台をたたみ、家路へとついた。それに自分もついてゆく。
『この間は、お小夜ちゃんの旦那さん…昨日は日高屋さんの息子さん…みんな、鱗滝さんくらいの若衆ばかりが亡くなってるのよ…。お小夜ちゃんなんて…2月ほど前に祝言を挙げたばかりだっていうのに…』
帰り道、女将である紗英さんはここ最近起きている怪奇事件について色々と教えてくれた。
「…皆さん、夜分に外を歩いてらっしゃったのでしょうか?」
『いいえ、日高屋さんの息子さんは家の中で殺されたって聞いたわ…、一体どうやってあんな大店に忍び込んで大それた事するのかしら…』
伏し目がちになった横顔は睫毛が僅かに揺れ、色香を放っている。
ーーーーいや、今そんな事考えてる場合じゃない。しかもこの人は人妻だぞ。しっかしろ左近次。
「お前さんも、気を付けな…」
煙管をふかしながら、大将がぶっきら棒に呟く。それに対し紗英さんが、あなたも若衆なんだからね!と、突っ込んでいる。
恐らくは異能の鬼だろう。十二鬼月だろうかー…。この街全体が薄らと鬼の臭いが漂っていた。
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夜も更け、家人は寝静まったようだ。音を立てないよう外へ出て、鬼の気配を探る。
ーーーー…近いっ。
家々の屋根をつたい駆け抜け、鬼の臭いのする方へと急いだ。
ーー!!!
鬼の頸目掛けて刃を振るう。
(…逃したかっ!)
女鬼はまさしく人を喰らい、抉り出した目玉を頬張っているところだった。すんでのところで刀を躱してその姿を眩ませた。
どこだ…っ!どこへ行った…!!
感覚を研ぎ澄まし鬼の臭いを嗅ぎ分ける。
ーー!!、鬼の臭いを察知した方角は、まさしく大将と紗英さんの家の方だ。
(…頼む、思い違いであってくれ!!!間に合えっ!!!!)
呼吸を使い全速力で走る。家々の屋根瓦が割れるが、頓着している場合ではなかった。
家が見えたーーーー…!!!
背筋に冷や汗が落ちる。…家の中から濃い血の匂いがしたのだ。