第11章 櫛を贈らせて【竈門炭治郎】
「…ぁ、起こした?」
あの後、力尽きるように眠ってしまった紗英さんを部屋へ運び俺は水浸しにしてしまった床とベッドの後処理をしていた。
部屋の片付けを終え、紗英さんの部屋へ行きベッドに座ったところで紗英さんの瞳がぼんやりと…開いた。
『…だいぶ、寝てた…?』
「ううん、少しだけ。…身体、大丈夫?お水いる?」
『…平気。…こっち来て…?』
布団から少し手を出して手招きされる。
「どうしたの?」
その仕草が可愛いくて…口元が緩んでしまう。
紗英さんの要望通り、俺も布団へ入り隣へ横たわった。
「…髪…似合ってるよ。」
しっとりとした黒髪。指で一房すくい上げる。
『…炭治郎くんはどっちが好き?』
「そうだな。…やっぱり、長い方が好きかな。今も十分可愛いけど。」
『ふふ…っ、じゃあ…また伸ばそうかな。私も、長い方が好きだし。』
「髪が伸びたらさ…櫛を贈らせてよ。」
紗英さんは俺の言葉に目を丸くして、言葉を詰まらせている。
『……炭治郎くん…、…あの…』
「意味なら、ちゃんとわかってるよ。わかった上で言ってるんだ。」
ついこの間、善逸に教えてもらった女性に櫛を贈る意味。
「…結婚、して欲しい。俺と。」
頬を撫でればピクっと身体が震え、その瞳が戸惑うように揺れる。
『……私…私で…良いの…?』
「言ったじゃないか。…最初から最後まで、紗英が良いって。…俺を、紗英の最後の男にしてくれないかな?」
紗英さんの瞳から大粒の涙が溢れる。
最後の男にして欲しい、なんて求婚にしては…ちょっと女々しいような気もするけれど…今は…素直な気持ちを伝えたい。
紗英さんからしてみれば、二度目の求婚。
絢瀬さんのそれとは、きっと全然違うだろう。
それで良い。この先…何度も過去に嫉妬することがあるかも知れないけれど、俺は俺なんだから。
俺のやり方で、この人を愛していけば良いんだ。
「…櫛、受け取ってくれないかな?」