第11章 櫛を贈らせて【竈門炭治郎】
「守るって…、そばに居られるような男になるって約束したのに…まだまだガキだな、俺。」
紗英さんは腕の中で小さく首を横に振る。
「俺が気にすると思ったから…絢瀬さんの事聞いても、はぐらかしてたの?」
『…そうじゃ、ない。…私が意図的に避けてた。……絢瀬の話をする事を。…それが炭治郎くんを不安にさせてるって、気付いてなかった…。』
俺と生きて行こうと決めたからには、絢瀬さんの話をしない方が良いんじゃないかと思っていたと…ぽつり、ぽつりと語ってくれた。
「…良いんだよ。…話してくれて。もしかしたらまた、馬鹿みたいに嫉妬するかも知れないけど…俺、紗英さんから絢瀬さんの話聞くの嫌じゃないよ。」
『…炭治郎くん…。』
「絢瀬さんの話をする紗英さんは…凄く良い匂いがする。…愛してたんだな…って、よく分かる。」
『……。…ごめんなさい…』
「謝る事じゃないよ。俺は最初から、絢瀬さんの事を好きな紗英さんを好きになったんだから。…良いんだ。全部ひっくるめて、…俺は紗英さんが好きだよ。」
紗英さんが、ぎゅう…と俺を抱き締め返してくれる。
『…絢瀬の事は、ずっと…思い出として在り続けると思うの。…でも、…炭治郎くんが好きよ…。…好きなの……っ』
「…わかってるよ…。だって、…俺の事を好きって言ってくれる時の紗英さんは…もっと良い匂いがする。」
顔を上げた紗英さんは少し涙目で…笑っていた。
『…好きよ、炭治郎くん。…だから…、帰ってきて…?』
花の香りのような…、甘くて優しい…俺を包み込むような匂い。
不安になる必要なんかない。…こんなにも、愛されてるって…分かる。
「…帰ってくる。紗英さんの所に…何があっても帰るよ。」
紗英さんの頭を撫でれば、…幼い女の子みたいに笑った。
どちらからともなく惹かれあい、俺たちはふた月ぶりに…唇を重ねた。