第11章 櫛を贈らせて【竈門炭治郎】
しのぶさんが快諾してくれたので、急いで紗英さんの家へと向かった。
誰も帰ってこない家で…1人過ごさせて…。寂しい思いはさせないって、決めてたんじゃないのか!
決して埋まらない年齢の距離。…俺が知らない紗英さんが居るのは…当たり前だろ。過去に嫉妬して…勝手に拗ねて…、何やってんだよ。
「……っ、紗英さんっ!!」
勢いよく玄関を開けた。
どこだ…どこにいる……!?
遠慮なく家に上がり、紗英さんの姿を探した。全く返事がない…家の中から匂いはするのに…。
俺がここに泊まる時に使う部屋の明かりがついている。
「…紗英さん…いる…?」
ゆっくり扉を開け、中を覗く。
ベッドの上で布団もかぶらず、寝入っている紗英さんが居た。
…俺の…着替えを抱えて…。
起こさないようにゆっくり、ベッドへと近付き屈んで紗英さんの顔を見る。
ふた月ぶりに見る紗英さん。少しだけ…髪が伸びただろうか?……涙の跡が目尻から頬にかけてついていた。
『…ん…っ…?…ぅ…ん…たん、じろ…くん?』
薄ら目を開けて、その瞳に俺を映す。
「……はい。」
『…ふふっ…、おかえりなさい…。』
優しく…目尻を下げながら笑って俺の頭を撫でてくれる。
『…おかえり。』
薄ら…紗英さんの目に涙が浮かぶ。
こんな…優しい人、泣かせて…俺は…。
「…ごめん…っ、…ただいま…!」
ベッドの上に飛び乗って力いっぱい紗英さんを抱き締めた。
『っ、…!…どうしたの…?』
「…ごめん、俺…っ…髪切ったのなんでか聞けなくて…紗英さんが…絢瀬さんの事、忘れられないのはわかってるんだけど…っ…勝手に拗ねて…全然帰らなくて……、ごめん…っ」
もう、言ってる事が支離滅裂だ。それでも紗英さんは俺を宥めるように頭を撫で続けてくれている。
『…ちゃんと、私も説明すれば良かったね。』
抱き締める力を緩め、紗英さんの顔を見れば…やっぱり優しく…笑ってくれていた。