第10章 飴を溶かす【伊黒小芭内】
『…っ、ぅ…ん…!?…ッ!』
深くて…甘い…飴玉の味の口付け。
小芭内の口にあった飴玉が私の口の中へ入ってきた。
『…な、何…飴?…じゃなくて…何、するんですか……?』
飴玉が入ってきて思わず唇を離しても、頭に…いつの間にか背中に添わされていた手は、しっかりと私を抱いたままだ。
入ってきた飴玉を思わず、カリっと噛んで割ってしまう。
「…俺が何のために飴を舐めさせているか、わかるか?」
左右違う色の瞳に見つめられる。
さながら…蛇に睨まれる蛙の気分だ。
『…わかりません…。』
「……お前の事がより良くわかるからだ。馬鹿が。」
『…???』
「お前は感情の起伏がほぼない。…表情も変わらない。…わかりづらい事この上ない。」
『……そうでしょうね。』
「こうして俺に抱かれていても、その瞳が揺れる事もない。」
口の中で飴が砕けてゆく…。
「……感情が揺れる時は、飴を噛む。わかりづらいお前の唯一わかりやすい癖だな。」
知らなかった…というか、気付いていなかった。自分の、その癖に。
小芭内は…ずっとわかってて…それで飴をくれていたの…?
「…退屈している時、何か言い澱んでいる時、…些細な事でも感情が動けば飴を噛む。…今は?何故、噛んでいる。」
『…小芭内が…口付け、するから…驚いて…。』
「…それだけか?言いたい事は他にもあるんだろう?さっさと言え。」
『…飴…蜜璃と買いに行ったんですか…?』
「…成り行きでな。」
『……蜜璃の事が…好きなんですか?』
小芭内の目が大きく見開かれる。
『…そう思ったら、頂いた飴は口に出来ませんでした。…飴屋に…蜜璃と行ったんだと思ったら苦しくて…。…馬鹿みたいだと、お思いでしょうけど。』
「馬鹿みたい、どころか馬鹿だな。くだらない。そんな事で。」
『悪うございましたね…。馬鹿ですよ、…どうせ。』
視線を逸らせば、顎に手をかけられ小芭内の方へ向かされて否応無しに目が合う。
「…好いていない女の心情など、わざわざ知ろうとするわけないだろうが。』