第10章 飴を溶かす【伊黒小芭内】
宇髄さんの夜這い(してないけど)から、数日後。
遠方で任務に就き、その夜は近くの藤の花の家紋の家で休息をとる事にした。
『……小芭内。』
会いたかったような、会いたくなかったような。
まさか同じ家で休息を取っているとは思わなかった。
「なんだ。安積か。お前は本当に昔から俺の行く先々に現れるな。」
久しぶりに聞く嫌味すら、嬉しいなんて…大概重症だ。
『…悪うございましたね。たまたまですよ。』
「お前、飴を舐めていないのか?」
たいていカラコロと音を立て飴を舐めているから舐めていないのが不思議だったのだろうか。でも何故か不機嫌そうに聞いてくる。
『…舐めてないですよ。』
「何故だ。甘露寺に預けただろう?」
あの日の苦い記憶が鮮明に蘇り、奥歯をグッと噛み締めた。
『ああ。…ははっ…、そう、ですね。ありがとうございました。』
「……俺のをやる。」
またしても懐から取り出して、私にずいっと渡してきた。
『…要りません。』
「何故だ。」
『…結構です。』
小芭内が差し出してくれているのに…全く素直に受け取れない。
「強情な女だな。さっさと受け取れ。」
膝の上に置かれた、…淡く透明に近い青色の飴玉が入る袋。
ぽた…ポタ…と、その上に滴が落ちた。
「…お前…。」
涙が溢れる。…馬鹿みたい。なんで…何が悲しくて…泣いてるんだろう。
蜜璃と小芭内の親しさに嫉妬してるのかな。
素直に飴玉を受け取れない自分が腹立たしいのかな。
もう…色んな感情が混ざり合って、苦しい。
「……。貸せ。」
元々、小芭内のモノなんだけどな…。薄らそんな事を思いつつ、小芭内が膝の上に置いた飴玉の袋から一つ、飴を取り出しているのを見ていた。
自分の口に含み、カラコロと音を立て舐めている。
「…お前は、本当に…手のかかる女だな。」
グイ、と後頭部を手で取られ…小芭内の方へ引き寄せられた。
『!!!……っ…、!?』
そして……ーーー
深く、口付けられる。