第10章 飴を溶かす【伊黒小芭内】
「おう!安積!相変わらず派手な顔してんなあ!」
もうすぐ邸というところで宇髄さんに声をかけられた。
『あー…宇随さん。相変わらず派手ですね。』
どっからどう見ても派手な顔はあなたの方だわ…と思うけれども、会えばいつでも派手な顔と揶揄される。
「なんだよ?派手に美人なんだから自信持てよ。毎回言ってるが。」
『自信ねえ。…この顔で得した事ないですけどね。』
「ほんとお前は…。俺は好きだぜ?氷みたいに冷たい瞳に、透けそうな程白い肌。…それでも中は溶けそうなほど熱いんだろうな…?」
すい…と、頬に指を滑らせる。
「嫁に来るか?」
『それも毎回仰ってますね。』
「そりゃな。俺はいつでも大歓迎だぜ。」
『3人いらっしゃって、まだ足りませんか?』
「お前なら欲しいな。」
ニヤッと悪戯っぽく笑いながら、ゆっくり頬から耳へと指を滑らせてゆく。
「……なんなら、一夜の妻でも…俺は歓迎だが?」
耳に口を寄せ吐息が耳に当たる距離で囁くように問われた。
『!!……っ、!…な、なに言って…ッ!』
「なにをしている?」
小芭内の声が急に後ろから割って入ってくる。
『…色良い返事期待しとくわ。』
小芭内に聞こえないように囁いて、ゆっくりと私から離れた。
「なーーーーんも?いつも通り嫁に来ないか言ってただけだろ?目くじら立たんなよ。」
「安積を嫁にしたいとは、お前の趣味には呆れて物が言えん。だいたい白昼堂々道の真ん中でする話でもないだろう?場を弁えろ。」
「そうだな。じゃあ今度は夜分、布団の中で話すとするか!なあ安積。」
『は!!?…はぁ…?いえ、…結構です…。』
「ははっ!冷てぇの〜!じゃあ、またな〜」
手を振ったかと思えば、もう見えなくなっている。早い…。
後に残された私と小芭内。…。
無言の時間が流れ、そこそこに気不味い。…気不味いのは恐らく私だけなんだろうけれど。