第10章 飴を溶かす【伊黒小芭内】
小芭内とは同期だ。
その年の最終選別で生き残ったのは私と小芭内の2人で、癸の頃から何かとよく任務が一緒になることも多かった。
その度に「またお前か」とネチネチ言っていた気がする。
何かと、その頃から腐れ縁だった。
2人で下弦の弍を倒して、揃って柱へ昇格した時も「俺が柱になるのはわかるが、お前が柱とは世も末だ。そんなに人材がいないのか」と言ってきた。
どんなに嫌味を言われても『あーそりゃー悪うございましたねー』と意に介さず適当に受け答えして今日までやってきたと思う。
どこら辺に、あの男を好きだと思う要素があったのか自分でも不思議だけれど…気が付いたら目で追ってた。
好きだとは、思うけれど…小芭内と睦言を交わすとか全く想像がつかない。
要するに、これくらいの距離感が丁度いいんだろう。
嫌味言われて適当にかわして、時々思い出したかのように買い物に行ったりして…近からず遠からず…腐れ縁のままいられたら、良いと思う。
それに、小芭内は蜜璃に気がありそうだ。
蜜璃は可愛い。言動から容姿から、どこを切り取っても可愛いと同性から見ても思う。
ああいう子が、小芭内の好みなんだとしたら真逆の私は目にも止まらないだろう。
この期に及んで可愛くなりたいとは思わないけれど、それにしても好いた男の前でくらい素直に笑って、楽しいことの一つでも言えたら…。
『何か』が少しだけ、違っていたのかも知れない。
先程飴屋で小芭内が買ってくれた大玉の飴を一つ口に放り込む。
甘い。…いつからか、小芭内が飴をくれるようになった。
飴が特別好きな訳ではないけれど、大玉をカラコロと口の中で転がしる間は無心になれて好きだったし、考え事をする時は大抵飴を舐めた。
いつか、飴みたいに小芭内への報われない思いも溶けて無くなってしまえば良いのに。
ぼんやりとそんな事を思いながら自分の邸へと歩いて帰った。