第10章 飴を溶かす【伊黒小芭内】
飴細工が仕上がってゆく様を、両眼を見開いて真剣に見つめている。
そんな横顔をみて、『好きだな…』なんて思ってる私は大概この男に惚れているなと思う。
『…楽しい、ですか?』
「当たり前だ。だからこうして見ているのだ。口を挟んでくるな。」
『そりゃ失礼つかまつりました。』
かれこれ1時間は店先でこうしている気がするけれども、本人が楽しいならそっとしておくとしよう。
蛇柱の伊黒小芭内。…趣味、飴細工を作っているところを見る事。
飴屋で買った飴をガリガリと噛み砕きながら食べ、彼の趣味に付き合っている。
「…だいたい…帰りたければ帰れば良いだろう?何故そこにいる?暇なのかお前は?」
口挟むなって言う割に話しかけてくるじゃないの。
『いえ。忙しいですよ。なんせ柱ですからね。多忙です。』
「なら帰れ。邪魔だ。」
……私が蜜璃だったら絶対そんな事は言わないでしょうに。全く可愛くない。
そもそも買い物に付き合えと藪から棒に誘ってきたのは自分のくせに。
小さく、口の中で留られる程度の溜息が零れる。
『…じゃあ、お先に失礼するとしましょうか。』
噛み砕いた飴を飲み込んでから、長椅子から立ち上がった。
ちら、と小芭内を見れば相変わらず視線は飴細工の方へと向けられたままで此方を見る事もない。
なんで、この男が好きかなあ?自分の男の趣味に疑いを持つ。
「…安積」
『なんですかー?』
「付き合わせて悪かったな。…気を付けて帰れ。」
視線は全く此方へ向かないけれど、一応気を遣っているのか。まあ…可愛いところもあるじゃないか。
『お気遣いどーもー、小芭内も気を付けて帰りなさいねえ』
「………。」
無視。…返事が来るとも思ってないし、軽くひらひらと手を振りながらその場から離れた。
別れ際、鏑丸とだけは目が合ったから音には出さずに「じゃーね」と言えば、しゅるしゅると舌を出していた。よっぽど鏑丸の方が可愛げがある。