第9章 姉の結婚・続【煉獄杏寿郎】
「お待たせしました。」
いい頃合いに千寿郎さんが戻ってきた。
『千寿郎さん、少し席を外しますから…炭治郎さんがお帰りの時は呼んでください。』
「はい、姉上…大丈夫ですか?…具合が宜しくないのですか?」
『いいえ。…やっと少し、眠れそうなので。休んできます。ごめんなさいね、千寿郎さん…あなたも辛いのに、心配かけてしまったわね。』
「いえ…っ、良かった…。休んでいて下さい。お帰りの時は声をかけます。」
『お願いします。…炭治郎さん、ゆっくりしていってくださいね。』
そう言って微笑んでから頭を下げて、部屋を出て行ってしまわれた。
「…すみません、姉上は兄上が亡くなられてから…ほとんどお休みになっておられなくて…。眠れそうと仰ったのは兄上が亡くなられてから初めてです。…なにか、お話されたんですか?」
「え!?…えぇ。煉獄さんの…思い出話を。」
「そう、ですか。…良かった。姉上、少し笑って下さった。義兄(あに)も安心するでしょう。」
「…はい。」
愛する人を失うのは辛く、哀しい。けれど、煉獄さんも言っていたように時間は立ち止まって一緒に悲しんでくれたりしない。…どんなに打ちのめされても、前に進むしかないんだ。…生きている限り。
「そうだ、こちらです。…炭治郎さんの知りたい事は書いてあるでしょうか?」
そして、俺たちは千寿郎さんが持ってきてくれた書に目を通した。
ーーーーーーーーーーーー
「歴代炎柱の書」はズタズタになっていた。それでも千寿郎さんは修復し、あの父上にも聞いて…何か解れば教えてくれるという。
「お話ができて良かった。…気をつけてお帰りください。」
「こちらこそ、ありがとうございました。」
『炭治郎さん、…これを』
紗英さんは白い布を開けて見せてくれた。
『杏寿郎さんの日輪刀の鍔です。…どうぞ、お待ち下さい。』
「!…い、頂けません、こんな大切なもの…、俺は…っ」
少し眠れたからだろうか…紗英さんは先程より顔色が良く、にっこりと…暖かな陽だまりのように笑う。