第9章 姉の結婚・続【煉獄杏寿郎】
「…紗英さんに会って、この言葉があなたに向けられたものだって気付きました。…だから…どうしてもこれは…伝えなきゃいけないと思って…。」
考えろ。この人が、前を向いて生きていけるような言葉。
…煉獄さん…、教えて下さい…。
「い、…生きて下さい!紗英さんは、生きて下さい。煉獄さんが願ったように、幸せに…。どうか、煉獄さんの分まで…生きて欲しいです…っ!」
また、大粒の涙が頬を伝う。
これが正解だったか分からない。だけど…。
『…炭治郎さん。…ありがとう、ございます。』
頭を下げ、声を詰まらせながら…絞り出すようにお礼を言われた。
『…お気づきでしょう。…何かと。…これは…私が生涯隠し通す秘密です。…出来れば、炭治郎さんも…そのおつもりで頂けると助かります。』
「勿論です!絶対…言いません。」
『ありがとうございます。…祝言の翌朝…杏寿郎さんの訃報が届きました。…まさか、こんな事になるなんて思ってもみなかったです。…ですが、彼も鬼殺隊の一員。…いつ、どうなるかなんて…誰にも予測できない。…漠然と…このまま…生きて、これからも「弟」として…側に居てくれるものだと思っていました。』
静かに…俺の目を見て、話す。
『それは…もう、叶わないですが…乗客を守り、あなたのような後輩を守り遺した。………炭治郎さん。』
「はいっ!」
『…どうぞ、あなたも…生きて下さい。生きて…いつか、柱となって下さい。…差し出がましいようですが…、どうか…杏寿郎さんの思いを、繋いで下さい。』
「なります。…きっと、なります。」
『ありがとう。……私はもう、大丈夫ですよ…ー。』
そう言った紗英さんは、雲が晴れたかのように微笑んだ。
きっと…この笑顔が煉獄さんは好きだったんだ。
大丈夫という、言葉に…嘘の匂いはしなかった。
煉獄さん。…ちゃんと、伝えましたよ。
最期のあなたの思いは…きっと、紗英に届きましたから。
俺は、泣き出したくなるのを必死に堪え…膝の上の手を強く握り締めた。