第9章 姉の結婚・続【煉獄杏寿郎】
「そうですか……。兄は最期まで立派に…。ありがとうございます。」
泣きながら頭を下げる千寿郎さんの隣でお姉さんも、大粒の涙を流し口元を抑え泣いていた。
悲しくて…哀しくて…、このまま息耐えてしまいそうな程憔悴しきっている。
「いえそんな…っ、力及ばず、申し訳ありません!」
勢いよく頭を下げて詫びる。
「気になさらないで下さい。兄もきっとそう言いましたよね?」
その通りだった。俺がここで死ぬ事は気にするなと…最期に煉獄さんは言っていた。
「父がよく見ていた書物に心当たりがあります。持ってきますので少々お待ち下さい。」
千寿郎さんが部屋を出て、お姉さんと2人になった。
『…ありがとうございます。…杏寿郎さんの最期を、伝えに来てくださって…。』
今まで泣いていて口を挟まなかったお姉さんが、ゆっくりと口を開いた。
「あの…お姉さんへの言葉、さっきお伝えしたものと…もう一つ、あります。」
もし、紗英さんに会えなかったら伝えないつもりだった。俺の中で一生留めて置いてもいいかもしれないと思っていた。…でも、これはどうしても「今」、伝えなければならない。
『…幸せに、なって欲しいと言う…以外、ですか?』
「はい。…婚礼の翌朝にご自分が死んでしまわれる事…、申し訳ないと…仰ってました。…それから…これは託された訳ではないですが…俺の、勝手な判断…なんですけど…。」
『……はい。』
「……最期に、許すと…。どうか、生きて欲しい…。…愛して、いると。…そう仰ってました。…もう、今際の際で意識も朦朧とされてたと思います。…どう言う意味か、俺にはわかりませんでした。…託された言葉でもありません。…俺の中で…留めておくつもりでした。」
大きな目が見開かれ…動揺と…愛情の匂い…、煉獄さんに…「弟」以上の感情を抱いているのが分かる。
そうだ。…だから、初めて見た時…身体を…己の半身を引き裂かれるような強い哀しみの匂いが、紗英さんからしたんだ…。