第9章 姉の結婚・続【煉獄杏寿郎】
煉獄さんの烏に導かれ、煉獄さんの生家・煉獄家へとやって来たものの……
ずううううううん…。
やってしまった…。
「お茶です。…どうぞ。」
千寿郎さんがお茶を出してくれる。
「ああ…ありがとう…。ごめんね…本当に、お父さん頭突いちゃって…大丈夫だった…?」
「大丈夫だと思います。目が覚めたらお酒を買いに出かけたので。」
「そっか…」
「ありがとうございます。」
「えっ?」
「…すっきりしました。兄を悪く言われても僕は…口答えすらできなかった。」
目を伏せ、自身の情けなさを告白する千寿郎さんに言葉が出てこなかった。
『…千寿郎さん、表で大きな音がしていたけれど…お客様ですか…?』
身体を裂かれる程の悲しみの匂い…。
煉獄さんのお姉さんだと、一目でわかった。
容姿は似ていないけれど、同じ…強くて、優しい匂いがする。
ずっと泣いていたのだろうか、泣きはらした目元が赤く…あまり眠れていないのか薄らとクマを作っていた。
…それでも尚、美しい人だと思う。
「姉上…起きて大丈夫ですか?」
『大丈夫ですよ。ありがとう千寿郎さん。…そちらの方は?」
「!っ…鬼殺隊士の竈門炭治郎です!…煉獄さん…杏寿郎さんから千寿郎さんとお父上、お姉さんにご伝言を預かって参りました!」
『…そうですか。杏寿郎の姉の紗英です。…わざわざ御足労頂き、ありがとう存じます。…まだ、貴方もお身体が万全でないでしょうに。』
心配そうに眉を下げ、千寿郎くんの隣にゆっくり座る。
「あ…いえ、大丈夫です。これくらい…。」
『勝手に抜け出したなら…しのぶさんに怒られてしまいますよ。烏を飛ばしておきましょうね。』
「…すみません。」
柔らかく、微笑んでくれる。…母のような、姉のような…煉獄さんが燃え盛る炎のようだとするなら、この人は…春の日の陽だまりのような人だ。
「…兄は、どのような最期だったでしょうか?」
千寿郎さんが会話に入って来て、本来の目的を思い出した。
「…煉獄さんは…ーーー」
ゆっくりと、煉獄さんの最期を2人に確かに伝えるため言葉を紡いだ。
目を閉じて…俺の一言、一言を聞き漏らす事のないよう聴き入るように話を聞いてくれている。