第8章 姉の結婚【煉獄杏寿郎】
俺は…貴方が姉じゃなければ良かった。
姉弟ではなく、もっと違う関係で、もっと違う場所で出逢えていたら…。最後の夜を過ごすのではなくて…始まりの夜を過ごしたかった。
…すみません。姉上、やっぱり俺は…「弟」で居られない。
「…俺は…貴方の弟でなければ良かったと思ってます。」
『…杏寿郎さん…?』
「出会えた事には感謝してますが…もっと違う形で、別の場所で…なんなら見合い相手としてでも、貴方と出逢いたかった。…貴方が姉でなければ…俺が弟でなければ…。何度思ったか分かりません。…ずっと貴方を見てきた。物心ついた時からずっと。…貴方だけでした。」
大きな目を見開いて、言葉を失くす紗英。
俺は、一旦溢れ出した思いを止める事が出来なかった。
「…好きです。ずっと、紗英だけだ。」
紗英の手の上に自分の手を重ね合わせれば、微かに震えているのがわかる。
「……紗英の弟では、いられない。」
迷いをかき消すように口付ける。
一度目とは違い、深く…ありったけの思いを告げるように口付けた。
『!!…っ、ぅ…は…、杏…寿郎…さん!』
胸を叩き抵抗する紗英。…俺にとってそれは些細な抵抗でしかない。
逃げようとする顔を手で押さえ、僅かに開いた唇に舌を差し込めばくぐもった甘い声が漏れる。
いっそこの舌を噛み切ってくれれば良いのに。
絡まる舌に応えるように紗英も、ぎこちなく舌を絡めてくるから熱が上がって仕方ない。
銀糸を引くように唾液が互いの口を繋ぐ。
『っ…いけません。……杏寿郎さん…』
紅く染まった頬で、潤んだ瞳で言われても…俺の劣情を煽るだけだと言うのに。
夜着の帯紐に手を伸ばせば、それに気付いた紗英が逃げようと身体を反転させる。
そのまま上に覆い被さるようにして動きを封じ、帯紐を緩め襟を抜けば白く滑らかな背中が露わになる。
ここに、俺の印をつけられたら…
明日の夜には違う男に抱かれる紗英。
ギリギリの理性で、その欲をグッと堪えた。