第66章 愛情表現(跡部景吾)
景斗がきゃっきゃと景吾くんに戯れる姿に、そんな私たちを見下ろす姿がふたつ。ひとつは見覚えのある人。確か結婚式に専務が連れていた女性。専務の娘さんだ。確か営業部、だったかな、と。その隣にいる女性には見覚えがないけれど、恐らく新入社員で。
そんな女性の景吾くんを見る目には見覚えがあった。たぶん、あれはきっと____
「頼華?どうかしたか?」
「…ううん、何でもないよ」
そう言って、私は彼に分からない程度に営業部のひとに小さく頭を下げた。
「さて、戻るか」
「え、もう視察はいいの?」
「あぁ。満足だ。」
そう言って私の腰に手を回し、エスコートするかのように歩き出した景吾くんの歩幅に合わせるように私は彼の会社を後にしたのだった。
「…あー、疲れた。」
「お疲れ様。」
部屋に入るや否や、ネクタイを解く景吾くんの姿に未だに胸が高鳴る。
「なんだ景斗のやつ、寝たのか」
「うん、ぐっすり寝てる」
景斗用にと、景吾くんがわざわざ発注してくれたベビーベッドに景斗を寝かす。すやすやと眠る寝顔は、彼そっくりだ。
「…じゃあ、今からは俺たちの時間だな」
「…え?」
「頼華、」
名前を呼ばれて景斗を寝かせたベビーベッドから、景吾くんの座るソファへ歩み寄る。開かれた彼の両腕に、私は身を委ねた。
「…お弁当、食べないの?」
「食べるが…今はお前が先だ」
そう言って横に座った私の頬に手を添えた彼の手に、自分の手を重ねた。
それを合図にして、景吾くんの唇が私の唇と重なる。啄むような口付けは、やがて景吾くんの舌が侵入してきたことで深いものとなって。私の鼓動は、なりやむことを知らない。
だんだんと、苦しくなって彼の胸を軽く叩けば離れていく唇。私たちの間に、銀色の糸を作っていた。
「…相変わらずだな」
「…言わないでよ」
自分でも頬が染っているのが分かる。すると、急に浮遊感に苛まれた。
「…ベッド、行くぞ」
私は彼に横抱きにされていることを理解した。景吾くんの目は、今私しか捕らえていない。
私も、彼のことで頭がいっぱいになっていた。