第63章 SS(色々)
花井梓(おお振り)
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「…はぁ。」
部活が終わって、家に帰れば見慣れた靴。お袋に”頼華ちゃん来てるわよ”なんて言われて。
まさかな、と思いながら部屋に入れば俺のベッドで爆睡してる彼女がいた。
「…おい、」
「んー……」
どうやら起きる気配が全くない。こいつは、俺が保育園の頃からの幼なじみで。親同士も仲良くて、小学校までは俺の部屋にもよく来ていた。
こいつを、ただの幼なじみとして見れなくなった頃には俺は完全に彼女を避けていたから。所謂、思春期ってやつで周りからの冷やかしに俺が耐えられなくて。
なのに、何故か俺と同じ西浦高校に進学したと親から聞いたとき内心すげー嬉しくて。
でも、俺はどう話していいかどうかも正直分からなくて。
ただ、桐青との試合の時客席から大声で『梓、打って!!』と、聞こえてきた彼女の声に俺は自分の気持ちに漸く素直になった気がした。
未だに無防備に俺のベッドで寝る彼女の姿は、高校生の俺には刺激が強すぎる。ましてや、好きな女が、なんて。
「…ったく、おい龍ヶ崎」
再度呼んでみるものの、反応はなく寝息だけが聞こえてくる。
「………頼華」
俺は卑怯だ。俺から苗字呼びをしたはずなのに、寝てるからと呼びたくなった彼女の名前に鼓動が高まっていく。
「…ん、はな、い…?」
「…!」
…タイミング悪。俺の声で目が覚めてしまった。
「…お前、なに人のベッドで寝てるんだよ」
「あ、ごめん花井」
…また、だ。彼女が苗字呼びをするたびに、ずきんと痛む胸。
「…花井?」
「……頼華」
「!!」
名前を呼べば、びっくりした顔でこちらを見る彼女。
「…名前、呼んでいいの?」
「…もう好きに呼べ」
あー、素直じゃねぇ。こんな言い方がしたいんじゃない。
「…あずさ!かっこよかったよ!」
「!?」
「てか、いつもかっこいいんだけど…その、ね。私、あずさに言いたいことが、」
これは期待していいのか?真っ赤になって言う彼女の言葉を俺は遮った。
「ちょいまち。俺から言わせろ…ずっと好きだった。今も。」
「!…私もあずさが、すき」
愛に埋もれていたい
キミからの愛が、ずっと欲しかった
end