第63章 SS(色々)
阿部隆也(おお振り)
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「ちょっと廉!」
「な、なに…」
「しっかりしなさい、よ!」
「頼華、怖い…」
「誰が怖いって!?」
「ご、ごめんなさいぃぃぃ」
何だありゃ。また喧嘩してんのか、アイツらは。三橋を追いかけ回している女は、三橋の双子の姉貴。双子のくせに、髪の色しか似ていないコイツら。女は三橋と違って、活発で短気で。でも試合中に見せる顔はマネージャーとしての顔で。
「ナヨナヨすんな!男でしょ!廉!」
「わ、わかってる」
「わかってないわよ!…あ!阿部!」
俺に気づいた彼女は、三橋の首根っこを掴んで俺に手を振っていた。
「阿部、何してんの?」
「おう、泉」
「あー…また喧嘩してんのアイツら。」
好きだねーと、泉は俺の隣に来て俺の視線の先を見る。
「…お前、頼華のこと好きなんだろ」
「はぁ!??」
「わぁ、図星じゃん阿部」
俺が、あいつを好き…?な訳ねぇ、と言いたいが、正直分からねぇ。
「あ!孝介!!」
泉に気づいた彼女は、泉の名前を大声で呼んでぶんぶんと手を振っている。…なんかつまんねぇ。
「…やっぱ好きじゃん、阿部」
「…なんでだよ」
「だって頼華が俺の名前を呼んだとき、すげぇ顔してたけど」
「…うるせぇ」
そうだ。そもそもなんで彼女は泉を名前で呼ぶんだ?なんて考えて。
「…付き合ってんの?」
「俺と?頼華が??」
なわけねぇじゃん、と隣で笑い転げる泉にため息をついた。
「あー、おもしれ。」
「…笑いすぎだろ」
「まぁでも?早く捕まえねぇと逃げられるかもな?」
ほら、と泉の指さす方を見れば彼女に注がれている視線に気づいて、俺は咄嗟に足が動いた。
「やっと気づいたかよ。阿部も案外鈍感なんだな」
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咄嗟に彼女を三橋から引き剥がして。彼女の手を取った。
「え、阿部?どうしたの、」
「…名前。」
「え?」
「…俺も名前で呼べよ」
なんて。何独占欲丸出しにしてんだよ、俺。かっこ悪。
「…隆也?」
「…もっかい呼んで」
「隆也」
つむぐ愛のことば
好きだ、そう伝えれば真っ赤に染った頼華の顔。
私も好き、なんて紡がれた言葉が俺の心を支配した。
end