第56章 喧嘩(玄奘三蔵)
「…あれで怒る意味がわからん。」
「まぁ三蔵は操られてた訳だしなぁ」
「それで怒ってる訳じゃねぇだろ。お前が攫われた理由、伝えただろ」
「…聞いたが、それが何だ」
「触って欲しくなかったんだとよ、からくり人形とはいえ他の女に」
そう。頼華が家出した理由として八戒に同意したのもあるのだが、もうひとつは悟浄の言った通りだった。
からくり人形には心がない。三蔵の綺麗な顔が欲しくて攫っただけ。でも、頼華にとっては普段他の女なんて見向きもしない三蔵が、操られていたとはいえ、簡単に触られていたからなのだが。
「…阿呆頼華が」
ふー、っと煙草の煙を吐き出す。窓に目をやれば、八戒や頼華と共に出ていった白竜がコンコンと窓を叩いていた。
『ちゃんと反省しないと戻りません 八戒』
『どうせまた魔天経文なくしてんでしょ馬鹿三蔵。自分でちゃんと探せバーカ!! by頼華』
なんて書かれた板を白竜はくわえていた。
「…あのクソ阿呆頼華!!」
「ちょ!白竜を撃とうとすんな!!」
「つーか、マジで謝らねぇとやばくね」
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一方その頃、頼華と八戒はとある茶屋に来ていた。
「…はー、ここの飲茶おいしかった!」
「良かったです」
「きゅーきゅー!」
「あ、白竜帰ってきた」
ありがとう、と白竜を撫でる頼華。
「…次のお店、行きましょうか」
「うん!次は中華食べいこ!」
「ここにしましょうか」
高級料亭の店の席に着く。
注文を取りに来たウェイターは、誰かに似ている気がした。
「頼華さん?どうかしました?」
「んー…なんでもない。あ、メニュー私も見る」
「はい、どうぞ。えっと、ふかひれスープと子豚の丸焼き、北京ダックを。」
「私エビチリと中華饅頭、胡麻団子とー、燕の巣のスープ!」
畏まりました、と下がっていくウェイターを再度見て頼華は首を傾げていた。
暫くすると先程のウェイターが料理を運んできて。下がろうとするウェイターの足を、わざと引っ掛けた。
「……げ、」
「あらごめんなさい、悟浄(ウェイターさん)」
にこり、と笑った頼華の顔はそれはそれは恐ろしいものだった。