第56章 喧嘩(玄奘三蔵)
「なぁ、八戒どこ行ったんだ?」
「あ?俺が知るわけねーだろ」
「三蔵は知らねーの?てか、頼華もいないけど」
「…知るか。」
煙草の吸殻で一杯の灰皿は今にも倒れそうなくらい積み上げられ、煙で充満した部屋。食べ物や飲み物の空き袋や缶が散乱した床。
「…え、なに頼華とまだ喧嘩してんの三蔵サマ」
「だから知らん。あいつが勝手に怒ってるだけだ。」
「頼華居なかったら形無しだな、三蔵法師サマ」
「…てめぇクソ河童、そこに立て。」
「ちょ、おい!マジで撃ってくんな!」
「…なぁ、八戒怒ってるんじゃねぇ?」
「何に怒るんだよ」
「だってよ、八戒あのとき___」
八戒が風邪をひいてしまい、3日ほどこの宿に足止めを食らっていた三蔵一行。その間、普段皆の身の回りの世話(主に食事の準備から片付け)を八戒は悟浄がしてくれる、と約束したつもりだったのだが。
そんな上手くいくわけなかった。普段、八戒がどれ程してくれてるのかがまだ身に染みていない悟浄たちの部屋は本当に悲惨なもので。それに嫌気が差した八戒は、お灸を据えるために家出、をしていたのだが。
それにいち早く気づいたのがまさかの悟空であった。
「…クソ河童のせいか」
「はぁ!?俺のせいなのか!?」
「八戒は、な!頼華は三蔵のせいじゃん!」
宿主に確認したところ、頼華は八戒と一緒に朝早く出ていったとのこと。部屋は綺麗に片付けられ、荷物も無くなっていた。
「…あのアマ」
「頼華が出ていったのは紛れもなく三蔵サマが理由だな」
「悟浄に同意」
「…テメェら」
「覚えてねぇの?あの時のこと」
「…忘れてねぇよ」
八戒が風邪を引いてこの村に立ち寄る前のこと。三蔵はからくり人形に催眠術をかけられ、攫われていた。三蔵を救うために、一行と頼華はからくり人形の潜む館に行ったのだが。そこでからくり人形に操られた三蔵は、一行たちを次々に襲ってきて。
催眠術を解いたのは、頼華だった。
昇霊銃をこちらに構えた三蔵に臆することなく、頼華は三蔵に近づいた。
『撃てるなら、撃って』
そう言って昇霊銃を自分に向けさせて、三蔵の唇に口付けをした。