第53章 指定席(XANXUS)
頼華の部屋の前。扉をノックしようとしたが、少し躊躇われた。はっきりと言っていいのか、どうか。だが、今は扉の前で考えていても埒が明かない。
「…はい」
ノックすれば、控えめに聞こえてきた彼女の声にガチャリと、扉を開く。
「…XANXUS」
「…今帰った。」
「…おかえり、なさい。」
どこか歪んでいる表情。俺のせいか、と思い頼華の座る横に腰掛けた。
「…お前、今日何してた」
「…えっと……」
口篭る彼女の表情に俺は堪らず口を開く。
「…見てたのか、あの時」
「…見るつもりはなかったんだけど、ごめんなさい」
「…何故謝る。」
「…ごめんなさい」
繰り返される謝罪の言葉。謝るべきは頼華ではないのに。
「…やっぱり私じゃ駄目なのかな」
そんな訳ない。そんな顔させないと誓ったのに。俺は堪らず、頼華を抱き締めた。
「…馬鹿言ってんじゃねぇ。」
「ちょ、っと…離して___」
「今から言うこと、黙って聞いてろ」
俺は彼女に全てを話した。俺の”禊”のためにした行動だと言うこと、全てを。
「…アイツらの手を切らなきゃお前に触れる資格は、俺には無い」
「…」
「まさかお前にそれを見られてるとは思わなかったが」
話終えればぎゅ、とコートが引っ張られる。小さい頼華の手が、俺の背中に回された証だった。
「…あのね、知ってたの。分かってた、XANXUSが道具として、女の人たちと関係を持ってたの。」
「…頼華」
「…でもXANXUSが選んでくれたのは、私だって分かってるし。嬉しかった。」
その言葉に少し、安心する。こいつは、分かっていて俺を受け入れてくれてたのだと。
「あのね……妬いた、の」
「…は?」
「だ、だって私のXANXUSなのに…私の知らないXANXUSを知ってる人達でしょ?触られてるの見て…妬いたの、」
ごめんなさい。とまた謝罪の言葉を紡ぐ彼女に、愛しさが溢れてきた。
まさか、嫉妬してた、なんて。