第53章 指定席(XANXUS)
あれは、誰なのだろう。
何故彼がここに?任務ではなかったの?
路地裏で見たくないものを見てしまった私は、過去の自分に後悔していた。
俺は今、とある場所に来ている。カス鮫だけには真意を伝えて、ひとり街の路地裏にいた。
頼華と心を通わせたあの日。俺はひとつの秘密を抱えていた。
それは女関係。欲を発散させるが為だけの関係、それ以上もそれ以下もない。求めてきても相手にはせず、俺が発散したい時にだけする相手。所謂、愛人とでも言うべきか。
頼華に触れるには汚い手かもしれない。俺なりに考えた結果、”禊”として過去の清算のため行動に移した。
目の前にいる女は、やはり俺の思う通りに縋りついてきた。今の俺は頼華以外いらない。
「…触るんじゃねぇ」
「でも…!」
「…お前はただの道具。それ以上もそれ以下もねぇ。」
「…っ」
「これ以上触ればここ一体全て焼き尽くすぞ」
そう言えば、女は苦痛に顔を歪め離れていく。俺に触れていいのは、頼華たったひとりだけだ。
何ヶ所目かの”禊”を終え、足早にヴァリアー邸に戻る。はやく、この”穢れ”を振りほどきたくて。
ガチャリ、と玄関を開ければいつもの様に頼華が待ち受けている、はずだった。
居たのは、カス鮫だった。
ス「…遅かったなァ」
「…頼華はどこにいる」
ス「…恐らく部屋だァ。」
カス鮫に頼華の居場所を聞いた俺は部屋に足を向けた。
ス「…おい、XANXUS」
「…なんだ」
ス「…たぶんお前を見たんだと思うぞ、頼華は」
こいつは何を言っている?頼華は今日任務はなかったはずだ。この邸内にいたはず、なのだが。
「…おい、どういうことだ」
ス「ンな怒んな。ベルが遊びに行くとかなんとか行って、頼華を街に連れ出しやがったんだが…ひとりですぐ帰ってきやがった。」
「…そうか。」
カス鮫から事の始終を聞き、納得がいく。そうか。あの時、微かに感じた視線は頼華だったのか、と。
ちゃんと伝えるべきだった、と。