第51章 心癒場所(玄奘三蔵)
「こんなボロ雑巾みたいになっちゃって…」
「お前までボロ雑巾言うんじゃねぇ殺すぞ」
「…殺されてもいいよ、三蔵になら」
「…冗談だ馬鹿が」
傷まみれになって、骨まで折って。なのにこんな無駄口が叩けるなんて、元気だと感心した。
「お前いつまで泣いてる」
「…え?」
「は?気づいてねぇのか馬鹿」
「…馬鹿馬鹿うっさい」
ごしごしと流れる涙を拭えば拭うほど、それは止まることを知らず。
「な、んか止まらない」
「…泣くな、頼華」
「っ…名前呼ぶのずるい」
「言ってろ。早く泣きやめ。」
それ以上擦ったら赤くなるだろ、と手を取られた。大きい三蔵の手が、私の目元をなぞる。
「…なぁ。」
「なに?」
「あー…名前、」
「…三蔵?」
「そっちじゃねぇ」
「…玄奘、」
「それ。久しぶりに聞いた」
確かに。言われてみれば、小さい頃は『江流』って呼んでた。13歳の時に三蔵法師の名前と経文を授かって、玄奘三蔵になってから『玄奘』って呼んでいたのに。
いつの間にか”三蔵”になっていた。隣にいても、彼があまりにも遠くに感じて。
「…玄奘、」
「あぁ。」
「玄奘!」
「なんだ!うるせぇぞ頼華」
「…お前はそこにいて、俺を見てろ」
玄奘の放った弾は烏哭に直撃したが、すでに力尽きていた玄奘を含めて皆倒れ込んだ。
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「あー…身体痛ぇ」
目を覚ませば烏哭は居なくなっていた。逃がしたか、とも思ったが地面に流れている血の跡を見ればそう長くは持たないだろうと思い、追いかけるのはやめた。
「…なんだ、俺たち寝てたのか」
「身体動かねぇ」
「このまま寝たら駄目ですって。一応山の中ですし。」
「てか、頼華は?」
視界に入らない彼女に気付く。無理矢理に身体を動かせば、木に凭れて眠る頼華の姿が目に入る。
「ありゃ、頼華寝てるじゃん」
「これは起きないですね」
「頼華もよく寝るよな、どっかの生臭坊主と一緒」
「死ねクソ河童」
「さぁ、じゃんけんして誰が荷物持つか決めましょう」
「え、三蔵も参加するのか?」
「…頼華は俺が持つ」
「急に独占欲強くね」