第50章 移り香(サンジ)
素直に、と自分自身に誓ったあの日。おれはありったけの愛を彼女に伝えたくて、口にしていたけれどまさかそれが彼女を泣かせる羽目になるなんて思わなかった。
「…おれのせいだな、ごめん」
「ち、違う…!」
「違わねぇよ、泣くほど嫌だったか…?」
「そう、じゃない…!!」
「…」
「…何も言えない自分に、腹が立つの…だから、サンジのせいじゃ、ない…!」
素直に伝えてくれるサンジに、答えたい。だけど、どうしていいかわからない私自身がもどかしくて。
「…嫌じゃない、んだろ?」
「…うん。むしろ、嬉しくて……!?」
急に浮遊感に苛まれ、気づけばサンジに横抱きにされていた。
「…部屋、行こう」
「…うん。」
______
サンジの匂いでいっぱいの彼の部屋。だいすきな香り。
ゆっくりとベッドに降ろしてくれた彼は、あの日と同じように横に座った。
「…触っていいか?」
「…え、うん…」
頬を撫でられれば、ぴくりと反応してしまう。
「…好き、だよ」
「…うん」
「…本当にすき。可愛い。」
「っ…」
「だから毎日おまえに、ライカに言いたくて仕方ねぇんだ」
苦笑する彼の顔ははじめてみた。こんなにも、素直に言ってくれる彼に私も気持ちを伝えるべき、そう思って決心した。
「…わたしも、サンジが好き、だいすき」
「うん」
「毎日かっこいいし、どきどきするし…」
「…うん、それで?」
「…もっと、あなたの近くにいきたい」
「…よく言えました。」
ありがとう、なんて言ってくれる彼にこちらこそ、ありがとうって伝えたい。
「…だからさ、」
「…うん?」
「…サンジが、ほしいな」
「っ…」
「だめ、かな」
「…んな訳ねぇ。」
むしろ、ずっと欲しかった。本当におれでいいのか?
なんて聞いてくる彼の首に手を回す。それを返事と受け取ってくれた彼は、小さく微笑んでいた。
はじめは、啄む程度のキスが何度も降ってきて。それはやがて、ぬるりと私の口内に侵入してくる。すべてを、味わい尽くすかのように絡みついてくるそれに、必死に応えたくて。
「…ふ、ぁ…」
「ん…可愛い、ライカ」
目を細めて言う彼の目から、逸らせないでいた。