第29章 酩酊のなかで(跡部景吾)
パーティ当日。
頼華は、今日のために俺が特別に用意させた深紫のドレスを身にまとい。
「大丈夫かな、景斗と里乃」
「ミカエルがいるんだ、大丈夫だろ」
「まぁ、それもそっか……緊張する」
「…だろうな」
少し震えた彼女の手を握れば強く握り返されて。
会場につくと、俺は頼華の手を握り車から降りた。
先程より幾分かざわつき始めた会場。
そりゃそうか、初めて俺が参加しているのだから。
それに___たぶんやつらは頼華が気になって仕方ないのだ、と。
ウェルカムドリンクを手に、頼華を近くのソファへと促す。
「…あまり、無理して飲むなよ」
「うん、分かってる」
その間も永遠に俺たちに向けられる好奇の目。
次々に挨拶に回ってくる財閥やグループの現当主たち。
また、その当主の横には絶対的に若い女たちが__おそらく娘なのだろう。またかよ、なんて思いつつ。
俺が冷たく交わそうとすれば、ぎゅ、っとシャツを握られた。
「…頼華?」
「ダメだよ、景吾くん。」
「……は?」
「ちゃんと、相手しなきゃ。」
次期当主、なんだから。私も頑張る、から。と
昔より強くなったその表情は母親のそれで。
でもどこか儚い顔は___あぁ、今にも抱きたい、帰りたい。なんて
頼華に促され、次々に挨拶していく当主と娘らに、俺は相手をしながらも、頼華の腰に手を回して横に居させて。
俺の話を聴きながらにこにこと愛想よく笑う頼華を見て、俺も次期当主としてちゃんとやらなければ、なんて。
「…景吾様、彼女は?」
ついに来た、この言葉。
誰も彼も決してこの言葉を放つことは無かった。
……こいつ、勇気あるな、なんて思いながら。
「…彼女は、頼華は俺の妻です」
先程よりさらにざわつき始めた会場で。
頼華の顔を見れば、先程とは違い少し頬を赤らめて俯いていた。
「学生結婚ってのは本当だったのか!」
「そういや子供もいるとかなんとか……」
「さ、帰るか。頼華。」
「もう、いいの?」
「あぁ、満足だ」
奴らの言葉を耳にしながら俺たちは会場を後にした。