第29章 酩酊のなかで(跡部景吾)
氷帝学園を卒業し、俺は頼華とともにイギリスに移住していた。
俺は氷帝学園の姉妹大学に。頼華は俺の妻として。
今日は俺の通う大学のパーティが開かれる。
いつもなら学期末パーティ等開催されていて、でもそれには頼華がいないから。参加するつもりも到底なかった。
だが、今回は違う。言わば俺の家_跡部財閥など、大学へ資金援助をしている財閥やグループのみの親睦パーティで。
本来ならまだ財閥の跡を継いでいない俺ではなく、親父やお袋が出席しなければいけないのだが__
「……は?今なんと」
「だからお前と頼華ちゃんに参加して欲しいんだよ」
「……親父たちが参加しなきゃいけないだろ普通は」
「あー、今な瑛子さんと日本に居るんだわ」
「……で。お袋は何て?」
「頼華ちゃんを見せびらかすにはいい機会なんじゃないってさ。だから頼むな、景吾」
「見せびらかすってなんだそれは。……って、おい!」
話の途中でガチャリと切れた電話。
……ったく、相変わらず自由かよ。なんて思いつつ。
「どうしたの?景吾くん」
「あー……いや」
「今のお義父様からでしょ?何かあったの?」
部屋に入ってきた頼華は景斗と里乃を抱えていた。
「何だ、ふたりとも寝ちまったのか」
「うん。お風呂入る前から眠かったみたいだし」
景斗は俺と頼華が卒業する前には頼華の中に宿っていた子供。里乃はそのあとに生まれた、景斗の妹だ。
ふたりをベッドに寝かせると、頼華は俺の横に腰掛けた。
「…景吾くん、どうしたの?」
「あぁ、実は_____」
親父たちから頼まれたことを頼華に告げると、くすり、と彼女は笑った。
「お義父様、お義母様らしいね」
「相変わらずだよな」
「……いいよ、景吾くんとなら」
「……!」
あまりパーティ等の好奇の目に晒されることを嫌う頼華。
だからこそ、主開催のパーティにもほとんど連れ出したことはなかった。
「……こういうの、嫌いだろ?本当に大丈夫か?」
「嫌い、っていうか苦手なだけ。」
大丈夫だよ、景吾くんがいるから。なんてそういう彼女に強くなったな、なんて思った。