第4章 安らかなひととき(XANXUS)
そこからはまぁ早いものだった。XANXUSとベスターによりジルたちは跡形もなく消え去った。
「…なぜ」
お前が泣きそうなんだとXANXUSが頼華に問う。
XANXUSが負けるなどとは思っていないが、頼華は俯いたまま唇を噛み締めていた。
ふと、XANXUSは頼華の頬に手を添える。少しびくっと反応し顔を上げた彼女の唇からは、相当噛み締めていたのだろう少し血が流れていた。それを自分の隊服が汚れるのも厭わずに、XANXUSは拭いとり頼華に口付ける。だんだんと深くなるそれは、まるで頼華の気持ちを落ち着かせていく麻薬のようで。
最後にペロリと彼女の切れていた唇を舐め取り、XANXUSが口を開いた。
「……お前と腹のガキを守るためだ」
「…え?」
「…俺は俺がやりたいようにする」
例え、己がどれだけ傷ついても頼華とお腹の子供を守れるならそれでいいのだ。と語るXANXUSの目も父親のそれだった。
「でも…っ」
「でもじゃねぇ。…俺はお前の」
「…?」
「…お前の旦那で父親だ。」
「!!」
頼華からの愛を受け入れたあの日から、XANXUSは少しずつ変わっていっていた。
餓鬼なんぞ興味ない、と思っていたXANXUSも頼華と過ごすことで、彼女との子供を考えていたのだから。
だから妊娠したと聞いた時、守るものが増えたとひとり心のどこかで内心喜んでいる自分がいた。
「…守るのは当然だろうが」
そう言いながら再びソファーにふんぞり返るXANXUSに、ぎゅっと抱きついた頼華に、彼は彼女の腰に手を回す。
「あらあら、派手にまぁやっちゃって。」
聞きなれた声、ルッスーリアだ。そろそろ皆戻ってくるだろう。
「まぁボスったら!頼華を抱いたまま闘ったのね」
とルッスーリアは笑う。
「ねぇ!ルッス!!XANXUSの傷─」
増えたから治して。なんて言葉は、彼によって遮られた。