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かわいいひと

第4章 私の太陽【煉獄杏寿郎】





どのくらい走っただろう…右目に刺さった破片は走るたびに響いて痛かったので途中で抜いた

いつの間にか下駄も無くなり足袋は泥だらけになっていた


見上げた月には雲がかかり暗闇が広がる

左目も霞んでこれ以上は無闇に動かない方がいいかもしれない

そう思っても冴木さんの叫びが耳に残りなかなか足が止められない


雲が切れた時に小さなお堂があるのが見えた


雷が近づいてきた…雨の臭いが濃くなってく


お堂の扉の鍵は空いていて思っていたよりは中は広く
奥に祀られていた神様は移動したようで神棚は空っぽだった





懐から御守りを取り出し鈴をチリンと鳴らした


「大丈夫…朝になれば家に帰れる」


外から雨の音が聞こえる…不安にならないように鈴の音に耳を傾けていると


「……み……げ」


遠くに杏寿郎様の声が聞こえる気がした

もう一度鈴を鳴らす


「深影!」

幻聴にしてはハッキリと聞こえる私が杏寿郎様の声を間違えるはずはない


「杏寿郎様?」


お堂の扉が開く…ぼやけて見える左目にキラキラとした黄金色が見えた


一瞬にして抱きすくめられる…この感触と臭いは杏寿郎様だ…


「深影…よかっ…」


杏寿郎様の手が私の頬に添えられると動きが止まった










深影を見て絶句してしまった


右目は血まみれで左目はあかく腫れて鼻血を流した痕が残っている

着物も酒と血と泥で汚れてボロボロになっていた



もう一度優しく抱きしめると深影は背中に回した手で羽織をぎゅっと強く掴んだ


「杏さま…杏さま」


そう何度も昔の呼び名で俺を呼び最後は子供のように泣きじゃくった


深影が落ち着きを取り出し掴んだいた手を緩め俺から体をそっと離した


「深影…鴉を飛ばしてくる」


外に出るといつの間にか雨は通りすぎ空気の冷たさが増した


鴉に不知火家に深影を見つけた事を伝えてもらい、次にカナエの蝶屋敷に怪我人を連れていく事を頼み飛ばす

一度旋回をして一声鳴き飛び立っていった

雨水で手拭いを濡らしお堂に戻り深影の側に座る


「少し痛いと思うが我慢しなさい」


顔に手を添えて血と泥にまみれた顔をなるべく優しく拭ってやる


泥汚れが消えて月明かりに浮かぶ深影の目からは再び透明の涙と血が混じった赤い涙が流れた


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