第2章 また、会いにいきます 【富岡 義勇】
「冨岡さんここは病院ですから、まず屋敷に帰って体を綺麗にしてから来て下さい」
この笑顔の時の胡蝶には逆らってはいけない…それでも動けなかった
一晩中山道を走りぬき足元は泥だらけで、全身から泥と汗と血液の混じった臭いがする、隊服に染み込んだたこの血液ですら深月の一部だ
「今の所は落ち着いてます、それに深月さんの傷は深いんです、バイ菌が入ると大変ですから」
そう言われては仕方なく屋敷に帰り、頭から足の先まで綺麗に洗い、新しい隊服を着て再び蝶屋敷に行った
病室は窓が全開で午前中の綺麗な空気と日光が降り注いで病床の白いシーツが光っていた
一ヶ所だけ窓にレースのカーテンが閉じられていて少し強くなりつつある光をやわらかく通していた
深月は胡蝶の処置が終わり、麻酔がまだ効いているのかうつ伏せの状態でまだ眠っている
ベッドの横には不死川が立っていた
「胡蝶は御館様の所に行った、薬を取りに来たらお前が来るまで見張りを頼まれたんだ」
冨岡は黙ったまま近づいて深月を挟んで対面側の椅子に座った
「胡蝶から聞いたが…不思議な鬼だな」
レースの影が深月の頬に揺らいだ
「…そうだな」
そっと深月の頬を右手の中指の背で触れた
「冨岡…これは鬼だ、迷うなよ」
鬼を里に連れて来た事に怒鳴られるか、殴られるかを覚悟していた冨岡には予想を越えた言葉だった
「なんだ?分かりやすく驚いた顔してんな」
「大事な人なんだろ…この鬼も、子供達も」
「……三冬は凄いな」
最近の不死川は以前よりほんの少しだけ身にまとう空気が柔らかくなった
たぶん三冬を傍に置いたからだと冨岡は…いや、不死川を知る鬼殺隊全員が思っている
思わずポロリとこぼした言葉だった
一瞬ジロッと睨まれたが、深く息を吐いて
「お前にはそれが、深月だったんだろ?
最近のお前は少し違ったからな」
「子供達に会わせたら斬れ、それが…この鬼の最後の願いだろ?」
「あぁ、そうだ」
答える声がかすれた、不死川には俺の弱さが見えている
「斬れねぇなら俺が……鬼も、お前も斬ってやるよ」
「もう一度言う、迷うなよ」
そう言い残して不死川は病室を出ていった