第16章 露草の消ぬべき恋も【宇随天元】
「我が娘の仕業なら私が殺す」
峰緒の父親は感情の死んだ目と心音を乱す事なく忍の当主の前でそう言い追手に加わった
峰緒の父親は里でも3本の指に入るくらいの手練れで
16歳の宇随が試合をしても10本中1本をとるのがやっとぐらい実力差があった
話した印象は感情も薄く里の…当主が求めた完璧な忍に近い……と思っていた
今ここに双子と居るって事は…峰緒の父親はそうじゃ無かったって事だな
おそらく追手を始末したのは父親か…
「おじいちゃん!!」
宇随の横を通り過ぎた双子は背後にいる男性の所に駆けていく
背中を向けたままの宇随に気付いた父親からは…7年前のあの日とは違い 乱れた心音と浅い呼吸が聞こえた
「天元…さま…」
雛鶴がそっと宇随の袖を引き顔を見るとさっき双子の頭を撫でた右手を見ながら泣きそうな顔をした亭主がいた
「露花がね里芋を落としちゃたの…そしたらね黒髪のお兄ちゃんが新しいのを露花と天元の分買ってくれたの」
なにも知らない双子はおじいちゃん相手に無邪気に話して それを聞いているおじいちゃんは始めはかなり動揺をしていたが また気配が薄くなっていた
「お兄さんお姉さん方…孫が世話になったみたいで…ありがとうございます 芋の代金は…」
「代金はいらない…美味い田楽が食べれたからな こんな事でもなかったら気付かずに帰る所だった」
宇随の様子が気になりながらも冨岡は双子の頭を撫でてやる
ゆっくりと立ちあがり背を向けたまま歩き出した宇随に「待ってくださいよう」と須磨とまきをが追いかけ雛鶴は双子と祖父に深々と頭をさげ 冨岡は手を振ってから歩きだした
少し歩いて冨岡が雛鶴に聞いた
「知り合い…か?」
「おそらく…天元様は分かったと思います」
「あの双子のおじいさんは忍か?宇随とよく似た気配だった」
「……7年前の天元様なら勝負にならないくらいの凄腕でした」
……7年前ならか…
少し前から後をつけられている事に冨岡と宇随は気付いていた