第16章 露草の消ぬべき恋も【宇随天元】
「朝咲き 夕は消えぬる 露草の
消ぬべき恋も吾はするかも」
「何を地味に言ってんだ!俺達は兄弟で殺し合いをさせられてんだぞ!!」
宇随は覆面を剥ぎ取り地面に叩きつけた
今2人の足下には他の兄弟4人の血塗れの死体が転がっている
里の当主である父親に兄弟で殺し合いをさせられているのが分かり動揺する宇随と対照的に無表情で弟は死体を見ながらも気配や音は揺らぐ事はなく何かを口ずさむ
兄には弟が異様な生き物に見えた
ー朝咲き 夕は消えぬる 露草の
消ぬべき恋を吾はするかも ー
「露草の花は朝に咲いたら夕方にはしぼんでしまう身も心も消えてしまいそうなはかない恋を私はするのでしょう
万葉集に載ってる短歌だ 峰緒はこの短歌をよく読んでた……」
「露草………峰緒が……」
「知ってたよ……お前と峰緒の関係は」
「……」
「峰緒が俺に嫁いでからは会ってないのも知ってる」
無表情で淡々と語る弟か宇随の紫かがった赤い目を見た
「峰緒は身籠っていた…嫁を殺してまで逃げた峰緒は誰の子を産んだんだろうな
お前も何も知らないだろう?……峰緒と子供にはもう手は出さないでやる
だから…殺り合おうぜ残った方が次の当主だ!」
兄弟と殺し合いをさせられてた事を分かっても 当主になるためならと言う弟の顔を見て宇随の背中にゾグリと悪寒が走る
弟は親父の生き写しだ…俺ですらこいつに気持ち悪さと恐怖を感じてしまう
俺の子だったから…峰緖は逃げたのか?
家族とは忍とは何なんだ?
忍の術はほぼ互角…ただ兄の方が気配を消すのは上手だった
自身の心臓の動きですら操作できる
この日宇随は嫁を連れて里を抜けた