第15章 骨まで愛して 【妓夫太郎】
妓夫太郎は7日に1度は必ず美津の好きな甘い菓子を持って逢いに行く…
甘い物なら果物でも菓子でも喜んで幸せそうに食べる美津を見るのが好きだった
美津の唾液に混じる甘い匂いと味も鬼の妓夫太郎が人間以外の食べ物を感じる唯一の方法でもあった
2人の関係は3年続き終わりは突然だった
7月が過ぎ蒸し暑い夏に虎狼痢 「コレラ」が帝都で大流行した
吉原にも感染者は出た 遊女を大門の外に出す事を嫌う吉原では感染した女達は羅生門岸という最下層の遊女が暮らす長屋のまたその奥に隔離され ろくな治療も受ける事なく死んでいき 「投げ込み寺」と呼ばれる寺にその名の通り投げ込まれ供養を受ける
美津もそのコレラに罹患して容赦なく羅生門岸へと隔離された
それを聞いた堕姫は怒りに身を震わせる
お兄ちゃんの大切な美津に!!
夜になり妓夫太郎は美津を探しに羅生門岸に行き 堕姫の食料庫のある地下へ美津を運んだ
美津の長屋から布団や浴衣なども持ってきたし 大きな桶に熱い湯を用意していた
嘔吐と下痢で汚れた美津の体を綺麗に拭いて 残ったお湯で髪も洗った
3日間何も食べてない美津は排泄するものも体内に残ってはいないが口からは胃液を下からは腸液を排泄してしまう
妓夫太郎は堕姫の浴衣を裂いて美津の綺麗になった臀部に当てて 清潔な浴衣を着せた
脱水症状も出ている美津に白湯を飲ませようとするも口の端から溢れてしまうし飲んでもそれを嘔吐してしまいどんどんと衰弱していく
「た ろう さん うつして し まう から
」
力無く美津が言う
「心配するな 俺は大丈夫だ」
今では美津の方が冷たい体を妓夫太郎は同じ布団に入り抱きしめた
それを申し訳ないと思いながらも美津は微笑み窪んだ目で妓夫太郎を見つめる
堕姫が持ってきた鼈甲飴を小さく砕いき美津の口に入れてやると
「あ まい 」と言って笑った
唾液に溶けた飴ですら美津は飲み込むことが出来ずに口からこぼれ 次第に意識が朦朧としていき妓夫太郎を見つめる目も瞳孔が開いていく
「美津…死なないでくれ…」
鬼になって始めて妓夫太郎は涙を流した
ーーべんーーー
琵琶の音が地下に響いた