• テキストサイズ

かわいいひと

第15章 骨まで愛して 【妓夫太郎】




赤い顔で座り込んだ美津を妓夫太郎はヒョイと抱えて居間に敷いていた布団に寝かせる


「薬は飲んだのか?」

抱えた時の美津の体が熱かった

「いいえ…」


「なにか食えそうか?」


「はい あと一晩寝れば起き上がれますから…明日の朝にお粥を作ります…」


あの熱じゃぁ…明日はフラフラだろうな

妓夫太郎は勝手に台所へ入り竈に火を入れ 土鍋はどこだ? 米はどこだ? 塩はどこだ?と言い


「殿方にそんな事を…」

美津の訴えを無視して調理を進めコトコトと土鍋が音をたて始めた

後は柔らかくなるまで弱火で煮込む…その間も美津の額に浮かぶ汗を近くにあった手拭いで拭いたり 水を飲ませたりとかいがいしく看病をしているうちにお粥も出来上がった



「少し冷めるまで待ってくれ」


額の汗を拭いながら妓夫太郎は不器用に笑う


太郎さん…笑顔も素敵…

「太郎さんはお兄さんですか?」

世話をするのになれている感じがした

「梅っていうワガママな妹がいる」

「私はひとりっ子だったから羨ましいです」

父親は随分前に女と出ていった…母親も亡くなり美津は孤独だった 吉原で遊女でない女はそんなに居ない…仕立て屋の顧客は沢山いるが友達は居ない
だからこんな時に頼れる人は居ない

蕨姫花魁の着物をたまたま取りに来た妓夫太郎がこんなに優しくしてくれた事が嬉しくて涙をこぼした



妓夫太郎が人間だった頃「腹が空いた 寒い」と言って泣く薄い着物で震える梅と藁の菰に2人でくるまり寒さに耐えた
その事を思い出したのかわ分からないが妓夫太郎は布団に潜り込み美津を抱き寄せる

ひやりと冷たい体と着物の袷からチラリと見える骨ばった体に美津はドキドキを通り越しクラクラと目眩がするようだった

「大丈夫だ…俺がいる俺が守ってやる」

頭の上辺りから聞こえてくる妓夫太郎の声に美津の心はときめいてしまう

気味悪がれ毛嫌いされた妓夫太郎だが美津にとってはひとりぼっちになってフラフラになるほどに体調が悪く心が弱っている時に初めて「守ってやる」と抱きしめてくれた王子様…だった


ひやりとした体が気持ち良くて

「もう少し…このままでいいですか?」

大胆にも美津は妓夫太郎の首に腕を回して抱きしめる

「お前が望むなら…」

妓夫太郎も背中に回していた片方の手を腰に回して美津の体を引き寄せた
/ 396ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp