第15章 骨まで愛して 【妓夫太郎】
美津(みつ)は吉原内で仕立て屋をしている 亡くなった母親が腕のいい仕立て屋でその母親が美津を厳しく仕込んだ
17歳とはいえ美津の腕もなかなかだと評判で花魁格の遊女から指名で仕事が入っていた
美津が仕立てる着物は遊女の体型を色っぽく見せるらしい…
ワガママで手のかかる蕨姫花魁までも美津を指名し仕上がった着物に文句も言わず金払いが良かった
どうしても仕立て上がった着物を今すぐに見たいと癇癪をおこした堕姫(蕨姫)がいつもは中にいる兄を呼び出し妓夫太郎は仕方なく着物を取りに美津の店に行った
「蕨姫さん所の男衆さんですか?すいませんお伺いできませんで」
ワガママで癇癪もちの蕨姫の着物はかなり神経を使う それに以前納品日に間に合わなかった時に
禿達に八つ当たりをして禿の顔が赤く腫れた
なんて事を聞いてしまった美津は体調が悪いのに無理をして仕上げた…
結果 高熱を出して寝込んでしまい間に合わなかった
高熱のせいで潤んだ瞳で妓夫太郎を見て玄関先で詫びる美津の姿に妓夫太郎は恋に落ちた
頬は窪んで…凄く痩せてる 仕上げた着物を包んだ風呂敷を抱いて帰ろうとする後ろ姿は 背が高いのに勿体ないくらいの猫背で…素敵
妓夫太郎の鬼になる前は気味が悪いと嫌われていた風貌は…美津の好みだった
「直しがあれば…いつでも持ってきて下さい
あの…またあなたが来てくれますか?」
妓夫太郎は振り向き
「あんたが望むなら…また来る…」
「では…待ってますね」
ふわりと笑う美津は右側だけにエクボができた それを妓夫太郎は可愛いと思った
熱のせいにして少し大胆な事を聞いてしまったかしら…と恥じらうも
妓夫太郎のなんとも思わせ振りな返事に美津は嬉しくて顔がにやけてしまった
美津の頬にヒヤリとした妓夫太郎の手が触れた 高熱のせいで体は熱いし顔も火照っていて冷たい手が心地よくて思わず目を閉じた
「俺の名前は妓夫太郎だ…太郎と呼んでくれ」
手が触れていた反対側の頬に冷たくて柔らかな何かが触れたと思ったら
チュッ
と音を立てて離れたから唇だと美津は分かって 嬉しいやら照れくさいやらで起きてはいられなくなり 玄関先でつぶれてしまった