第2章 また、会いにいきます 【富岡 義勇】
俯いていた深月が顔を上げ見つめてきた
そこで初めて自分が深月の震える手を握っている事に気づく
「……。」
驚いたが、手を放す気にはなれずにそのまま深月と見つめ合う
先に口を開いたのは深月だった
「私は鬼ですよ…鬼斬りさん」
冨岡ではなく鬼斬りと言ってくれた事で、どうにか自分が何者か思い出し手を放す事ができた
「すまない…ありがとう」
さすがにこんな気持ちのまま、子供がいるとはいえ深月と同じ空間で寝る事はできないし、自分の中の感情をもてあまして恥ずかしい
部屋に戻り隊服に着替えて、縁側に戻った
「今日は夜明けまでここにいる」
深月の顔を見れなくて、今度は冨岡が両膝の上で手を握りしめた
「やっぱり鬼斬りさんはその隊服が一番ですよ」それでは失礼しますねと、冨岡の横を通り過ぎようとして立ち止まる
「あれは…鬼火?」
顔を上げると深月の家に続く道に炎が揺らめいていた
「鬼火じゃありませんよ」
玄関口から知った声がした、勘次郎だった
「最近、あんたが来る満月の日にあわせて子供がいなくなるだろ?だから村の皆に言ったのさ、深月の所に通う男が怪しいってな」
「馬鹿が…深月まで疑われるだろ」
「馬鹿じゃねぇ!」
叫び、頬を痙攣させて笑った
「大丈夫だよ、深月はただ騙されてるだけだから俺の所の座敷牢に閉じ込める事になってるよ」
今度は深月をうっとりと見つめる
間違った!判断が間違った
金と地位がなければ只の臆病者だと思っていたが…
チヤホヤされるのが当たり前で力仕事もしたことが無い軟弱者のくせに自尊心だけは以上に強い男だ
深月に相手にもされず、耕吉や亮吉の子供達からあしらわれる始末で、あげくにその深月には何度も通う男もいる
深月に対する嫉妬、男して頼られてる冨岡への嫉妬、愛されてる子供達への嫉妬、思い通りに行かない事への苛立ちそんな身勝手な怒りがこんな狂気に走らせていた
「深月…子供達を」
「気安くよぶんじゃねぇ!なぁ…みづき…」
勘次郎が伸ばした手の手首を深月は掴み微笑んだ