第14章 共感覚 【宇随 天元】
病院で撮影に夢中になって通訳の人と離れてしまった
そんなに広くもない院内だからとそのまま撮影をした こっちに来て1ヶ月を過ぎ 拍子抜けするほど穏やかな日常を送っていたから気が抜けて眼鏡を外して色をたよりに撮影をしていた
その時パスポートやスマホの入ったバッグを盗られてしまった 慌てて首から下げていた眼鏡を掛けて英語で
「パスポートだけは返して!」
と叫んでも相手は小さな子供で伝わらず彼を追いかけ走った…瞬間に前方から凄まじい音と爆風に飛ばされ私は頭を強く打った
泥だらけの私を助けてくれたのは地元の少女だった
頭を強く打った私は記憶がなく言葉すら口から出ない状態で動けるようになるまで1ヶ月かかった
記憶が戻ってきた頃にはこの地域はテロ部隊が支配していた
少女はボランティアが設立した学校に通っていて英語も話せた その時の日本人のボランティアによくしてもらったらしくて その時の恩返しだと私をテロ部隊から匿ってくれた
私はその日本人に感謝した
少女の名前はカミルで瞳の大きな可愛らしい15歳の少女で両親は内戦で亡くなり彼女は近くの工場で働き1人で生きていた
私の存在は知られてはいけないから沢山喋る事 家から出る事を禁止された 筆談でカミルとは会話をして食料も2人分を買うと誰かに怪しまれお金欲しさに密告されるかもしれないからと1人分を分けて食べた
そんな状況でも心を強く持てたのはカミルの笑顔と首から下げていた天元がくれた神社のお守りだった
大学の学園祭で嫌がる天元を
「中東に行く軍資金を稼ぎたいの!」
そう言ってハロウィンだからとドラキュラに仮装させた
デザイナー志望と特殊メイクアーティスト志望の友達の本気コスプレで凄まじく色気のあるイケメンドラキュラが完成した
「ドラキュラと撮影会10分1000円です」
「1000円は高いよ!」
私は反対したけど天元は全く譲らず
「俺には派手にその価値があるんだよ!1000円じゃねぇと絶対やんねえ!」
と言い張り1000円になった 結果3日間で20万も売り上げた
その時に2人で撮った写真を小さく畳んでお守りの中に入れていた それを開いてはヒビだらけの眼鏡で見て絶対に生きて日本に帰ると強く願った
2年後軍事政権が崩壊してこの地域からテロ部隊が居なくなった