第14章 共感覚 【宇随 天元】
実知が居なくなって3年目に彼女の父親から
「もう君は待たないで欲しい…3年もの間実知を愛してくれてありがとう
僕ら夫婦は宇随くんが…あの日大きな体を折り曲げて泣いている君のまま立ち止まってないか心配なんだよ 実知の事は思い出にして 君の未来を探して欲しい…」
そう言われてしまい それから連絡はしていない
実知が居なくなって7年が過ぎた
行方不明者も7年たてば死亡者扱いになる
忘れる事は出来ないでいたが 区切りはつけないといけないと思えるまでにはなった
街頭でニュースが流れた時に隣にいた不死川とは縁があったのか今はキメツ学園で同じ教師として働いている
個性的な教師が多くて俺みたいな風変わりな教師ばかりだが自分の事より生徒思いの奴が多くて懐かしい感じがする職場だった
「不死川…地味な頼みがあるんだわ」
今だに首から下げているペンダントを見せる 黒い筒の中にはネガが数枚とまだ現像してないフィルムが入っていた
「これを…写真にしてきて欲しい…そんで… 一緒に見てくれないか?」
地味な話だ1人で見る勇気が無いなんてな
目障りだった女達を遠ざけるために軽薄で粗暴な男を演じた あの頃の俺を知る不死川はきっと派手に呆れてるだろうな…
居酒屋の向かいに座りうつ向いた俺の頭に不死川の手がふわりと乗ってポンポンと軽く叩かれる
「あぁ…いいぜ」
優しい不死川の温もりが頭から俺の体に染み込んでいく感じがした
写真が出来たと言って呼び出されたのは不死川のマンションだった
「確認の為に俺はこの中身を見た…お前に見せていいのかは…正直分からない」
テーブルに置かれた封筒に触れる
地味に手が震え 不死川はそれに気付いていない振りをする
呼吸を深くして気持ちを集中させる 昔から深く呼吸を落とすと気持ちが落ち着く
封筒の中は…
ネガは実知が共感覚で撮った 白いキャンバスの前にすわる俺と 眼鏡を掛けて撮った俺 フィルムのままだった中身は実知がこっそりと撮った眠る俺の姿と
あの日朝に俺が撮った泣き笑いをする実知の笑顔だった
7年前の実知が見ていた俺が溢れていた