第14章 共感覚 【宇随 天元】
人間の自然な姿を撮りたいと言った出逢った頃の実知の言葉が浮かぶ…
戦争や内乱の中で懸命に生きる姿を撮りに行ける機会なんか そうそう無い…だけど…惚れた女が自分の手の届かない危険な場所に行く事に
何故かとてつもない不安が広がる
『俺が守らなければ…』
そんな思いが沸々とわき上がりその日は実知をずっと抱きしめて眠った
翌朝…実知が入れてくれたコーヒーをテーブルに向かい合わせで飲む
朝の光をまとい微笑む彼女は相変わらず小猿みたいな顔だと思った
「実知…頑張ってこいよ」
実知は目をくりくりとさせて驚き それから涙を流して笑う
忙しい奴だなぁ…と思いながら実知の頭を撫でた
「天元…ありがとう」
この時の実知の笑顔はとても綺麗で手元にあった実知のカメラで彼女を1枚撮った
出発の日の前日から俺は実知のアパートに泊まった
帰国予定日は大学も休みになってるから成田まで迎えにいく約束をしていた
だから今日は家からの出発を見送って欲しいと言われて 俺が実知の部屋の鍵をかけた
「必ず帰ってくるおまじない…鍵とこのペンダントを天元に預けておくね」
ペンダントは皮の紐の先に大きな黒い筒と実知の部屋の鍵がぶら下がっていた
「あぁ…預かっておく」
昨日ずっと抱きしめていた実知の体をもう1度だけギュッと強く抱きしめる
実知も抱きしめてくれて…2人の体温が少し交じりあう 実知と俺の鼓動も重なった
2ヶ月後に成田で再会する約束をして実知は空港へ俺は大学へとむかった
夜 バイトが終わり仲間と帰る途中の駅の電光掲示板から臨時ニュースが流れた
中東の都市で大規模な爆弾テロが発生
日本人 1名が行方不明 安否確認中
写真家に同行していた助手の大学生と思われます
俺の耳から音が消えてアナウンサーが冷静に読んだニュースだけが何度も俺の頭で繰り返される
「おい…宇随大丈夫か?」
立ち止まり呼吸が浅くなる俺に不死川が声を掛けたと思うが俺の耳には声は流れてこなくて ただ不死川の少し焦った顔とパクパクと唇が動くのをただ見ていた