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かわいいひと

第14章 共感覚 【宇随 天元】




「色に合わせて撮った写真は大体ピンボケなんだけど…いい感じなんだよ」


「今撮ったやつ見せろよ」


「フィルムだから無理だよ」


「今どき地味にフィルムかよ」


「デジタルよりフィルムは少しだけ嘘をついてくれるの…そこが好き」



実知はそう言いながら眼鏡を掛けて俺を見た

「わっ!イケメンだ!」

じろじろと見てくるからギロリと睨む



「無駄だよ どんなに演じても君は優しくて綺麗な色だもの…この色も一緒に写せたらいいのにね」



「…宇随…天元」


「えっ?」


「俺の名前だ!」


「ふふふっ よろしくね宇随くん」


今度は眼鏡をかけたままでカシャッと一枚撮った


「明日もここにいる?」


「たぶんいる…」そう答えると実知は


「じゃぁ 明日私の作品持ってくるから見てね」


そう言って部屋を出ていった





























それから時々実知はこの部屋に来るようになった


共感覚を頼りに撮る写真は確かにピンボケが多かったがそれ以上に被写体の自然な表情から喜び 悲しみ 怒り 慈しみ 願い がにじみ出てくる感じがして 実知の撮る写真に惚れた


作品に惚れると自然にそれを生み出す実知に興味が湧き…いつの間にか実知を校内でよく見かけるようになった



「宇随…最近よく窓際に座るし よく外を見ているよな?」

俺が探していたのか…探している理由も分かった



実知は地方から上京していて独り暮らしをしていた
だいぶん古いアパートで大家が新規の入居者を取って無く今の住居者が居なくなったら取り壊す予定だという事で 実知は隣が空いた時に許可をもらい 壁をぶち抜いて隣の部屋を暗室と倉庫にしていた


実知は101を生活スペース102を作業部屋にしていた
103と202にそれぞれ別の大学生が住んでいて ちょうどいい距離があって静かな居心地のいいアパートだった


次第に実知の部屋に俺の荷物が多くなり実知から油絵の具の匂いがするくらい俺は実知の側にいた





秋が深まった頃 実知が中東に行くといいだした

「撮影のアシスタントをしている先生が中東の小学校の写真を撮りに行くの…私も同行したいと思ってる」


俺が派手に反対すると思い顔を見れなくて俺の胸に顔を埋めて実知は言った


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