第13章 思い出紡ぎ 【悲鳴嶼 行冥】
私の足は限界で歩けなかった
後藤くんがそんな私に気付いてくれて行冥くんの所に運んでくれた
「薬はいい…手遅れだ…他の若者の所にいってくれ…」彼が治療を拒んでいるのが聞こえる
後藤くんは私を行冥くんの隣に下ろしてから 他の隠たちに「2人きりにしてやれ」と言ってくれた
「行冥くん…」
「弥雲か最後に逢えてよかった」
力なく下ろされた大きな手に触れたいつも温かな手は出血しているせいで冷たかった
握り返す力も無いのに腕を上げようとするのは私の顔に触れたいのだと思った
行冥くんの右手を取り頬にかさねる
「弥雲には怪我は無いか?」
「怪我は無いけど… 全集中の呼吸を使ったから足がガクガクしてるの」
右手に頬をすりよせて手のひらに口付けをした
「弥雲…もっとそばに…」
唇に触れていた彼の指がわずかに動いていつもの合図をする
周りには大勢の隊士や隠が負傷者の救助や治療に走り回っている
それでも愛しい人の願いを叶える為に彼との…最後の口付けを交わした
口付けを深めると血の味が私の口にも広がった
しばらくして唇を離し行冥くんの頭を私の胸に抱き寄せる
「弥雲…生きてくれ…私はその為に闘ってきた…ただ1人…愛する君に明るい明日を…未来を見せたかった…約束して…く…れ」
「………」
「弥雲…」
「…生きるよ…それが行冥くんの願いなら…未来を生きる…だから私の最後の時には迎えに来てね…約束して」
「あぁ…」
「行冥くん…愛してるよ…」
行冥くんからの返事はなくて彼の体から聞こえていた鼓動はだんだんと弱くなっていく
しばらくして行冥くんの目から涙がこぼれた
「…行こう」
最後に小さくつぶやき微笑んで彼の鼓動は止まった
行冥くんとの最後の日だった