第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
冨岡が目を開ける…
右側に感じる痛みと重みが、誰の重みか誰からの痛みかが分かった
あぁ…俺は生きて…三葉の元に帰ってこれたのだと痛みで実感する
全身が軋むように痛いが愛しさの塊を抱きしめたくて体を動かし三葉を抱き込んだ
この匂いだ…桜の匂い…三葉の匂い
窓を見ると外は雪が積もっていて、雪に反射した陽光が、三葉の頬に反射して彼女自身から光を放っているように見えた
あの5年前の雪の中で彼女を助けた…それが出会いだった
「三葉…」
呼びかける言葉は掠れ声にならなかった
それでも三葉はゆっくりと目を開きふわりと笑った
「お帰りなさい…と…み…」
三葉は最後まで言葉を繋げられずに泣き出してしまう
冨岡も三葉の背中をさすりながら泣いていた
「三葉…外を見ろ雪が積もっている」
しばらくして落ち着いた三葉が窓を見る
「あの日と反対ですね」
死にかけていた三葉を抱きしめ温めた冨岡が、今は三葉に抱きしめられている
「そうだな…」
掠れた声を出す冨岡に「水を飲みましょう」とベッドから降りようとする三葉の服を掴み顔を横に振り「行くな」と合図する
素直に甘える冨岡に甘酸っぱく胸がキュンとなる
「これからはずっと側にいますよ」
そう言って抱きつく三葉だが、力を入れた場所が悪く骨折した骨に響き冨岡が呻いた
「ほら…まだ痛むんでしょ?」
痛むのは三葉のせいなのだが…何故か冨岡のせいにされた
「ゆっくりと飲んで下さいね」
飲みやすいように少し枕を高くして硝子の吸口で冨岡の口に少量の水を流し込む
コクコクと半分の量の水を冨岡は飲んだ
少しこぼれた水を拭いて、枕を元に戻した
みんなに冨岡が起きた事を知らせるという三葉を
「三葉…もう少し俺の側にいてくれ」
と言って三葉を再びベッドへと誘う
素直な冨岡にキュンキュンしながら三葉は隣のベッドから枕を持ってきて右側に入ろうとするのを
「こっちがいい」と言われ手を広げた冨岡の左側に横になり胸に頭を乗せた
とくん とくん と鼓動が聞こえ、呼吸するために肺が膨らむ…
冨岡が回した左手が三葉の左側をゆっくりとなぞる
「少し冷えたか?」
「はい…温めてください」
三葉は掛け布団を冨岡の肩が隠れるくらいまで上げた