第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
目を覚ました不死川は病室を移り、冨岡と三葉だけになった
病室を移る時に冨岡の呼吸がわずかに変わったのを不死川が気付いて三葉に伝えていた
鮭大根を作り側に置いても反応は無かった
それでも三葉は相変わらず毎日病室に通い冨岡の側にいる
大晦日の夜は蝶屋敷に宇随が大量の蕎麦を持って来て、まだ眠っている炭治郎と冨岡を残しみんなで温かい年越し蕎麦を食べた
伊之助が天ぷらを食べたいといい、禰豆子は山かけ、我妻は禰豆子と同じ物がいいと
それぞれがワガママを言っていたが宇随の嫁達がそれを全部聞き入れて蝶屋敷の食堂には大量のごちそうが並んで賑やかな食事になった
不死川はアオイから 「1合だけです!」とお許しが出て宇随と酒を飲んでいる
そんな賑やかな食堂を後にして小さなお椀に蕎麦を入れて三葉は冨岡の病室に行った
賑やかな声が病室まで聞こえてくる
「…冨岡さんもうすぐ年が明けますよ」
椅子に座り冨岡の代わりに三葉が蕎麦を食べた
右手のない冨岡のベッドは少し広く感じ三葉は横に潜りこみ冨岡の肩に頭を乗せる
傷が痛むかもしれないが今は冨岡の匂いと温もりがただ欲しかった
三葉の知っている冨岡の匂いより消毒液と軟膏の匂いが強くて涙が溢れる
冨岡さんの匂いを忘れてしまったらどうしよう…
そんな不安に押し潰されながら三葉は冨岡を抱きしめ泣いていた
除夜の鐘が鳴りだし宇随が初詣にと三葉を呼びに来たが、冨岡を抱きしめ眠っていた三葉を見て宇随は病室を出た
嫁達は相変わらず察しがよく何も聞かずに「今日は夫婦水入らずで…」と雛鶴が言って宇随の背中を押した
夜明け前に振りだした雪が積もり
鬼の居なくなった新しい年は静かな朝を迎えた
桜の匂いに包まれ空を見上げた冨岡の先にはまだ蕾すらでてない桜並木があった
「義勇…」
名を呼ばれた方を見ると
父上、母上、蔦子姉さんがいた
駆け寄ろうとするも3人は少し寂しそうに止める
「貴方はまだ此方にきてはいけません
待っている人が居ます…その方と生きて…幸せになっていいのよ
私が繋いだ貴方の命を貴方も…その方と繋いで下さい…此方に来るのはそれからでいいの…わかった?」
姉さんとゆびきりげんまんをした
「義勇…約束よ…」
風が吹いて姉さんの声だけが響いた