第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
靴を履いた三葉が冨岡の横に座ると冨岡が立ちあがり三葉の足元に正座をした
三葉の足を右足をとり履いたばかりの靴と靴下を脱がせ水で綺麗に洗った素足を膝に乗せる
「えっ!わっ!冨岡さん!」
突然の事に三葉が驚き足をばたつかせる、三葉の足首を掴み「大人しくしろ」と無表情で言われそのまま仕方なくされるままに三葉は冨岡の膝に足を乗せた
隊服のポケットから小さな缶を取り出し皮が薄く捲れた所に丁寧に軟膏を塗った
塗り終わると靴下も靴も履かせる
左足も同じ様に軟膏を塗られるのだが何もない親指の所を特別に優しく触れられた気がして三葉は心が震える
いつも冨岡は三葉の足を唇で丁寧に愛してくれた…2年前の肌の記憶が甦る
冷たく突き放され振り向きもせずに別れを告げられた
でも…足に触れる冨岡の指は優しい
両足に軟膏を塗り終わると冨岡は再び三葉の横に座り無表情に前を見る
冨岡の温もりと匂いが残る羽織に包まれた三葉は戸惑っていた
「しみないか?」
「?…はい大丈夫です…しのぶちゃんの軟膏ってしみました?」
消毒液は「しみますよ」と処置する時によく言われるし確かにしみるが軟膏はしみた事はなかった
「2年前くらいからか…胡蝶がくれる傷薬が時々凄くしみる…」
それ……わざとだ
以前にも三葉を泣かせた罰と言って伊黒に薄荷を混ぜた傷薬を渡したと言っていた
「おい!胡蝶!何だこれは!」
激怒した伊黒の顔が面白かったとしのぶちゃんがケラケラと珍しく笑っていたから覚えている
そうか……しのぶちゃん冨岡さんにも同じ事したんだ…
胡蝶に隊服を届けに行き、そこに抜糸の為に来ていた冨岡とすれ違い泣いてしまった事がある、しのぶは泣いた理由をきいて「そうですか…任せてください」と言って悪い笑顔をしたが
2年たって「任せてください」の意味がようやく分かった
ムキムキネズミが三葉の膝の上にちょこんと座り三葉は指で優しく撫でていた
「冨岡さん……ありがとうございます
独りだと…たぶん泣いて100回出来なかったです」
三葉は冨岡と視線が合うと柔らかく笑う
浴衣に自分の羽織を着て笑う三葉に冨岡はまた恋に落ちてしまう
思わず三葉へと手を伸ばそうと指が動く
「上弦の陸撃破ーー」
胡蝶の鴉の声が上空で響いた