第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
冨岡が長い階段を登った先ある神社の鳥居に近づくと鈴の音が聞こえて柏手が二回鳴った
三葉は白い浴衣を着て素足でお百度参りをしていた
「胡蝶が心配しているぞ」
声を描けるも三葉は自分の唇に人差し指を付け首を横に振る
願掛けの間は喋るのは良くないとされている事を冨岡は思い出した
お百度参りの起点となる石の横にはムキムキネズミがいて三葉が戻るたびに小さな石を並べる
このまま三葉を置いて去る事は出来ずに冨岡はネズミの隣に座った
冨岡の今日の任務は終わっていた
上弦と戦う宇随の加勢にも行きたいが柱を1つの場所に集中させる訳にもいかない
指示や応援要請をくるのを待つしかなかった
冨岡は勝手な別れを告げてから三葉を避けてきた
久しぶりに見る三葉は16歳の時とは違い
体つきも顔立ちも少女から女性へと変わっていた
綺麗になった…
月明かりに照らされ何度も冨岡の前を通り過ぎる三葉を見て素直にそう思う
隊服の修理が終わり新しい担当の隠から隊服を受け取るたびに微かに桜の香りがする事に気付き三葉の仕事だと知って嬉しかった
2年間冨岡と三葉の接点は桜の香りだけだった
数時間後100回を終えて起点に戻った三葉の腕を掴んだ
「三葉…蝶屋敷に戻ろう」
「嫌です…夜明けまでいます」
掴んだ三葉の腕が…体が震えていた
「嫌です!…また…消えてしまう」
俯きボロボロと大粒の涙が何粒も落ちて石畳に丸い染みをつける
「父も母も兄も私から居なくなりました…これで兄様や姉様まで…
私が大好きな人達はみんな居なくなる
もうこれ以上…失いたくないんです!夜明けまで此処にいます!」
顔を上げて真っ直ぐに冨岡を見据える三葉の目にはもう涙はなく凛とした黒い瞳が月明かりに輝いていた
「分かった…たが靴は履け その足では参道を血で汚してしまう…」
冨岡の言葉で自分の足元に視線を向けると所々石に引っかけて赤く腫れていた
「ありがとうございます」
手水所で柄杓を使い足をすすぐとネズミが手拭いと靴下と靴をいそいそと持ってきて三葉の手伝いをする
冨岡はその光景を見守りながら羽織を脱ぐ
「女は体を冷やすな」
三葉の肩に羽織を掛けて冨岡は賽銭箱の横に座り隣をポンポンと叩き三葉に座るようにうながした