第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
この日の三葉は新年にむけて宇随が着る羽織の仕上げをしていた
本当は仕上がってるはずが冨岡の羽織を先に作ってしまい少し焦っている為かなり集中して針を進める
2日前に宇随は嫁を連れて任務に行き屋敷には三葉しかいない
少し遠方の任務で近くにいい温泉があるらしくて三葉も誘われたのだが羽織の事もあり屋敷に残った
宇随は「そんな事はいいから」と言ってくれたが自分に喝を入れる為にも留守番を選択し
頑固な三葉の性格を理解している宇随が折れた
区切りのいい所で一息ついてお茶に手を伸ばす……と
冨岡が座卓の前に座り三葉を見ていた
「えっ!わぁっ!…と冨岡さん!」
飛び上がらんばかりに盛大に驚いている三葉を見て冨岡は小さく笑う
「すまない…声はかけたんだが気付いてもらえなかった」
「すいません…私、集中すると音に鈍感になるので…いつから居ました?」
「そんなに待ってない」
冨岡は正方形の包みを差し出す
「任務で四国の方まで行っていた…土産だ」
「ありがとうございます…開けてもいいですか?」
冨岡が頷いたので開けると、白、薄桃色、黄色、薄緑色の4色の和三盆で作られた花の形をした押し菓子が入っていた
「わぁ…可愛いい
ちょっと待ってて下さい お茶を入れてきます」
「いや…土産を渡したかっただけだ」
何故だろう…冨岡さんが何時もと違う
三葉は和三盆の菓子を1つ口に入れる
キメの細かな和三盆が舌に触れるとホロホロと溶けて優しい甘さが広がり思わず顔がほころんでしまう
甘露寺もそうだが幸せそうに食べる姿はなんとも可愛らしい…伊黒がただ隣で食べる姿を楽しそうに見ている気持ちがなんとなくわかった…が今それが分かっても…
「なにを真剣に縫っていた?」
「兄様の新年に着る羽織です」
「そうか…宇随は幸せ者だな」
「あの…冨岡さんにも作ってますよ…」
微笑む三葉を見て冨岡が顔をわずかに歪めた
普通なら気付かないほどの小さな変化を三葉は気付いた
なんだろう…冨岡さんが怖い…
いつの間にか冨岡は三葉の隣に座り白く小さな手をキュッと握る
「俺は…それをもらえない…守っていく事は出来ない…だから三葉とは逢わない」
三葉の心臓が重苦しくドクリと収縮した