第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
屋敷に帰ると留守番をしていた隠が出迎えた
「冨岡様お帰りなさいませ お風呂と食事の準備は終わっております
御館様から 今回は遠方の任務ありがとう報告は明日でいい との伝言です」
そう言って頭を上げる
「そうか…ありがとう」
いつもの返事をする冨岡だがその横に三葉がいて、しかも手を繋ぎ帰ってきた姿に隠は驚いていた
「ではこれで失礼します」
見えるのが目だけでよかったぜ…
隠が帰り、玄関で草鞋の紐を緩める冨岡をよく見ると隊服は汚れていたし、足袋も汚れていた
「先に湯浴みをして下さい…
私はその破れた羽織を直しながら待ってますから」
三葉は先に風呂に入る事を進めた
「お茶の準備をしますね…台所お借りします」
冨岡は急須と湯呑みと茶筒を棚から出してから素直に風呂に向かった
冨岡が湯浴みをする間に鉄瓶にお湯を沸かす
冨岡が出してくれた座布団の上にちょこんと座り、巾着から裁縫道具をだして羽織を広げるとふわりと冨岡の匂いがした
冨岡の屋敷に隊服の修繕に何度もきているし、体型の変化を知るために定期的に体の採寸もしているから体を近付けたこともある
でも…今日は冨岡さんの匂いにドキドキする
羽織を顔に持っていき息を深く吸って三葉は冨岡の匂いをもう一度嗅いでから針を進めた
着流しに着替えて居間に戻ってきた冨岡は、少し顔を火照らせ濡れ髪をいつものように後ろでまとめている
兄様と一緒で湯上がりの色気がすごい…
「お帰りなさいませ…お茶をどうぞ」
と、お茶を入れて冨岡の前に出す
「もう少しで終わりますから…」
三葉が羽織に針を進める姿を眺めながら冨岡はゆっくりとお茶を飲む
しばらくして「お待たせしました」と羽織を畳んで横においた
「所作が綺麗だな…」
「ありがとうございます…父の家が元旗本で江戸城に上がってたらしくて、祖母が…今さら武家って言っても仕方ないのですけど躾られました…厳しかったんですよ、竹でお尻を叩かれてました
でも冨岡さんにそう思っていただけたなら…祖母に感謝しないといけませんね」
幕末の騒動がなければ姫の様に苦労もなく三葉は過ごしていたくらいの身分だった
あの激動の時代に三葉の家は衰退して今は元忍の家族になっている