第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
てちてちと歩きだした冨岡に三葉はなかなか追いつく事が出来ない
「冨岡さん!」
振り向いた冨岡が三葉との距離が以外と離れていて少し驚いた
「今日は袴をはいてないので大股で歩けません…ごめんなさい」
立ち止まった冨岡にやっと追いついた
それからは冨岡は三葉に合わせてゆっくりと歩く
無表情であまり話さないし話しても言葉が足りない
冨岡を知る隊員からはそう思われているし実際そうなので普段からあまり会話をしない
しかし三葉と冨岡は命を救われた側と救った側と言う関係でもあるから
三葉は命を救ってくれた優しい人という特別な思いをもって冨岡に接している
冨岡も感情も無くし痩せて死にかけていた子供が宇随のおかげで可憐な少女に成長し
他の隊員達とは違う目で見てくれる三葉にいつの間にか特別な感情が芽生えていた
本来の三葉は明るく冨岡の屋敷に縫製の仕事に来た時も、屋敷付の隠が驚くほどに冨岡相手でもよく喋る…
三葉の身近であった面白い話や、冨岡の任務の話を色々と聞いてきたりする
特に遠方での任務の話が好きで
汽車に乗ったか、船で行ったのか、美味しい物を食べたのか…
いつも口数が少ない冨岡だが、黒色の瞳をキラキラさせながら色々と質問をしてくれる三葉との会話は楽しかった
なのに今日は冨岡の少し後ろをうつむき静かに歩く三葉を不思議に思っていた
「具合が悪いのか?」
冨岡が立ち止まると、うつむきぼんやりと歩いていた三葉は冨岡が止まったのに気付かずに体がぶつかってしまう
「すっ…すみません」
三葉が顔を上げると、冨岡の顔が近くにあり三葉の顔は赤くなっていた
「熱があるのか?」
空いている手で三葉の頬に触れる
「熱…はないです…ただ恥ずかしいだけです」
「恥ずかしい…何でだ?」
「初めてだったんです…神社で…された…事…あれは…どうして私にしたんですか?…ただの戯れですか?」
そう三葉が言うと冨岡が「心外だ…」と呟いた
俺は言葉が足りない…あの告白は三葉には伝わっていないのか…
「ちゃんと話がしたい…俺の屋敷に行くぞ」
「はい…」
冨岡は三葉の手をとり指を絡ませてギュッと握った