第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
三葉の潤んだ瞳が揺れている、その揺らぎと桜の匂いに少しだけ冨岡の呼吸が乱れる
三葉の胸は激しく上下して呼吸も乱れている
後ろでまとめていた髪は冨岡が強く指を差し込んだ為に簪が外れてしまった
「どうして…?」
冨岡の手が三葉の手を握り自分の首…頸動脈あたりに三葉の手のひらをあてる
三葉の顔は…というか首まで赤く染まり呼吸は乱れ鼓動はかなり速い
冨岡の顔は少し頬が染まるくらいで、三葉から見れば呼吸も落ち着いている、でも同じ柱から見れば全集中常中は全く今は出来ていない
それに冨岡の首に触れた手に伝わる鼓動は三葉と同じように速かった
「三葉を見るとこうなる…だから…そういう事だ…」
鼓動が乱れ全集中の呼吸も乱れている…その意味を冨岡は分かっていた
冨岡の精一杯の告白は三葉には伝わっていない
三葉を抱き上げて御堂の階段に座らせた、冨岡は後ろに座り袂から茜色と緑色の亀甲柄の小さな小物入れを取り出し、開くと片方には鏡がもう片方には桜の蒔絵の櫛が入っていた
櫛を手に取り三葉の乱れた髪を丁寧にとかして行く
そして桜色と黄色で出来た組み紐で三葉の艶やかな黒髪を結んだ
その間だ三葉は緊張しっぱなしで肩に力が入っているし、両手は着物の袷を掴んでいた
髪をとかす冨岡の手つきが優しい…
冨岡に姉がいた事も、姉の蔦子の髪を時々結わせてもらっていた事も三葉は知らないので…
以外に冨岡さんは女性の扱いに慣れているのかしら?
そんな事を思ってしまう
小物入れに櫛を戻して冨岡は三葉の手にそれを渡した
「三葉の好みだと思って買った…もらってくれ」
「あっ…この紐は…」
「それも…三葉に似合うと思って買った」
「ありがとう…ございます」
冨岡の羽織の柄によく似ている小物入れを大事そうに両手で握り三葉は嬉しそうに笑った
「宇随が心配してるだろう…帰るぞ」
冨岡が差し出した手をとる三葉だが、立ち上がろうとはしない
「あの…足を捻ってしまって」
左足のブーツを脱がせると足首が腫れていた
伊黒の隊服の上にブーツを乗せて冨岡は背中に斜めに掛けて風呂敷を強く縛る
「寛三郎…宇随の屋敷に行き蝶屋敷に来いと伝えてくれ」
「ワカッタ…」
冨岡の老齢な鎹鴉は飛びたっていった