第11章 雪の日に始まる【冨岡 義勇】
雪の日に助けた三葉は痩せていて髪はパサパサだったし肌もカサカサで荒れていた
目覚めたと聞いてから何度か様子を見に行ったが、感情が抜けた様な無表情でただ天井を見ていた
その時にカナエが左足の親指を切断する処置をした後も、栄養失調で体が傷を治す力が弱くて化膿して赤く腫れていても
「痛い」と、一言も言わないとカナエが心配していた
その三葉が宇随の妹として引き取られて2年間ほどたち
体も成長して、黒髪は艶々として肌もゆで玉子のように艶も張りもある
なによりコロコロと感情を変える顔が可愛い
着ている着物もそれなりに上等な物だったし半襟の柄や簪なども品がある
香まで気を配っている辺りは派手好きの宇随らしい
所作まで綺麗なのは…あぁ…武家の出だといってたな…
風呂敷を畳む手つきが柔らかくて冨岡はじっと三葉を見ていた
振り向いた三葉は冨岡の隊服姿を頭から足元まで見てから
「兄様の隊服姿も格好いいのですが…冨岡さんも兄様に負けない位素敵ですね」
ふふふふっ…と笑う三葉の愛らしさに冨岡は、なんと返事を返せばいいのかわからなくて眉をひそめ視線をそらした
冨岡はただ照れてしまい、言葉をなんて返したらいいのか分からなかっただけなのだが
その仕草が三葉には迷惑そうに見えてしまった
「出かける所でしたよね…お邪魔しました」
慌てて三葉は帰ろうと頭を下げる
「…ありがとう」
少し顔を赤くした冨岡の口が少し微笑んだように三葉には見えた
なんとなく2人で屋敷の門扉を出る
お互い向かう方向は別だから三葉はもう一度頭を下げて
「冨岡さん…行ってらっしゃいませ」
いつも宇随に言う様に出た言葉だったのだが
何故か冨岡は一瞬固まり右手を上げてから御館様の屋敷へと向かう
その後ろ姿を見えなくなるまで見送り三葉は心臓が とくん と跳ねるのをくすぐったく感じる
冨岡さん…余り顔に出ないけど笑顔が可愛らしいんだなぁ
兄様とカナエさんに冨岡さんの事を聞いてみよう
三葉はもう姿の見えなくなった通りを振り返ってから洋裁学校へと向かった